
アリストテレス
Aristotle
紀元前384年 — 紀元前322年
万学の祖、徳と中庸の哲学者
この人物について
プラトンの弟子でありながら師のイデア論を批判し、経験と観察に基づく学問体系を築いた「万学の祖」。論理学から生物学まで、あらゆる知の領域を切り拓いた。
【代表的な思想】
■ 中庸の徳
倫理学では「幸福(エウダイモニア)」を人生の最高善とし、それは徳の実践によって達成されると説いた。徳とは過剰と不足の中間にある「中庸(メソテース)」であり、勇気は無謀と臆病の間にある。
■ 四原因説
万物の存在を「質料因・形相因・作用因・目的因」の四つの原因から説明した。自然界のすべてには目的があるとする目的論的世界観を展開した。
■ ポリス的動物
人間は本性的に「ポリス的動物」であり、共同体の中で生きてこそ人間らしい生を実現できると論じた。政治学を実践的学問として体系化した。
【特徴的な点】
プラトンが目に見えない「イデア」の世界を重視したのに対し、アリストテレスは目の前の現実を観察・分類することから哲学を始めた。天上の理想より地上の現実を重視した経験主義の祖。
【現代との接点】
「極端を避け、バランスを取る」中庸の思想は、分断が進む現代社会で改めて注目される。徳倫理学はビジネス倫理や人格教育の分野で再評価が進んでいる。
さらに深く
【思想の形成】
アリストテレスは紀元前384年、マケドニアのスタゲイラに医師の息子として生まれた。父の影響で早くから生物観察の経験を積んだことは、その哲学の経験主義的色彩を決定づけた。17歳でアテナイに渡りプラトンのアカデメイアで約20年学んだが、師の死後に学頭《がくとう》を継げなかったこともあり小アジアに渡る。そこで動植物の観察と分類に没頭し、やがてマケドニア王フィリッポス2世に招かれ、若きアレクサンドロスの家庭教師を務めた。紀元前335年にアテナイへ戻ってリュケイオンを開設し、歩きながら講義したことから逍遥学派《しょうようがくは》と呼ばれた。
【思想的意義】
アリストテレスは三段論法を中心とする形式論理学を史上初めて体系化し、これを学問一般の「道具(オルガノン)」と位置づけた。形而上学では実体・偶有性《ぐうゆうせい》・可能態《かのうたい》・現実態《げんじつたい》といった概念装置を整え、存在するとは何かという問いに取り組む。プラトンのイデアを事物から切り離すことを拒み、形相《けいそう》は質料《しつりょう》と結びついて個物の内にあると考えた。倫理学では行為のたびに過剰と不足の中間を見出す「中庸」を説き、幸福を徳の実現として捉えた。論理・自然・倫理・政治を貫いて、現実の観察と分類から出発する独自の学問観を築いた点に意義がある。
【影響と継承】
アリストテレス論理学は十九世紀にフレーゲやラッセルの数理論理学が現れるまで、約二千年にわたり西洋の標準であり続けた。中世ではイスラーム世界のイブン・ルシュドを経由して再発見され、トマス・アクィナスがキリスト教神学と統合して中世の知の屋台骨とした。近世にはガリレオやデカルトが目的論的自然学を批判して近代科学が立ち上がるが、その批判対象としても彼の存在感は圧倒的だった。現代の徳倫理学ではマッキンタイアやヌスバウムがアリストテレスを復権させ、企業倫理や人格教育の基盤として再評価が進んでいる。
【さらに学ぶために】
『ニコマコス倫理学』は幸福と徳を論じた主著で、中庸の理論が体系的に展開される。『政治学』はポリスと市民の関係を論じた古典、『詩学』は悲劇論として文学批評の出発点となった。朴一功《ぼくいっこう》訳や高田三郎《たかださぶろう》訳(岩波文庫)が入手しやすく、山口義久《やまぐちよしひさ》『アリストテレス入門』も平易で薦められる。
主な思想
形而上学(第一哲学)を体系化した創始者であり、実体・形相・質料を中心概念として確立した
徳倫理の創始者として、人格と実践を重視した
論理学(三段論法)を体系化した創始者
アリストテレスはイデアが個物から独立して存在するという主張を批判した
イスラム哲学はアリストテレス受容を通じて発展、アヴェロエスらが註解を残した
人間はポリス的動物であるという共同体論
穏健な実在論の哲学的基盤
論理学・形而上学がスコラ哲学の理論的基盤として受容された
『詩学』で悲劇論・カタルシスを論じ西洋美学の出発点
自然法思想の源流の一つ
経験的観察を重視
普遍は個物に内在すると説く穏健実在論で唯名論と対立
論証的学知を重視し中世以降の合理主義に多大な影響
近い哲学者
対立する哲学者
影響を受けた人物
影響を与えた人物
アリストテレス哲学をキリスト教神学と統合する思想的基盤とした
マッキンタイアは徳倫理学を現代に復興
アヴィセンナはアリストテレス哲学をイスラム形而上学として再構築
ボエティウスはアリストテレス論理学の主要著作をラテン語に翻訳
アヴェロエスはアリストテレスの最大の注釈者として中世哲学に影響を与えた
アリストテレス的宇宙論・倫理学
アリストテレスの徳論をヌスバウムがケイパビリティ・アプローチに発展させた
アンスコム『現代道徳哲学』が徳倫理学復興を提唱
『存在と時間』はアリストテレス『形而上学』『ニコマコス倫理学』の再解釈
vita activa論の源泉
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