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共同体主義

個人より共同体の絆と伝統を重視する思想

政治哲学共同体伝統

この思想とは

人間は共同体の中で形成される存在であり、個人の権利より共通善を重視する政治哲学。

【生まれた背景】

1980年代、ロールズの『正義論』に代表される自由主義が前提とする「負荷なき自己」(原子論的個人観)への批判として登場した。サンデル・マッキンタイア・テイラー・ウォルツァーが代表的論者。

【主張の内容】

サンデルはロールズの原初状態を批判し、人間は常にすでに特定の共同体・伝統・物語の中に位置づけられた存在であると論じた。善き生の構想は抽象的原理からではなく、共同体の伝統と実践の中で形成される。マッキンタイアは『美徳なき時代』で近代啓蒙の道徳哲学の失敗を論じ、アリストテレス的な徳倫理の共同体的基盤への回帰を主張した。テイラーは「承認の政治」を展開し、文化的アイデンティティの社会的承認の重要性を説いた。共通善と市民的徳を重視し、地域社会への参加と連帯を促す。

【日常での例】

「自分らしさは家族や地域のつながりの中で育まれる」という実感は共同体主義的。

【批判と限界】

保守主義との混同、多元社会での共通善の困難さ、個人の権利の軽視が批判される。

さらに深く

【思想の深層】

共同体主義の哲学的核心はロールズの「負荷なき自己(unencumbered self)」への批判にある。サンデルはロールズの「原初状態」(自分の出自・能力・価値観を知らない状態での合意)が前提とする自己像を問い直した。実際には私たちは常にすでに特定の歴史・文化・共同体の中に位置づけられており、「負荷(encumbrances)」なしには存在できない。自己は選好の単なる担い手ではなく、共同体的物語の中で形成される。マッキンタイアは『美徳なき時代』(1981年)でより根本的な問いを立てた。啓蒙の合理主義的道徳哲学(カント・功利主義)はすべて失敗しており、その理由は道徳的判断を行う共同体的・伝統的・物語的文脈を切り離してしまったことにある。アリストテレス的な徳倫理と政治的共同体(ポリス)への回帰が必要だと論じた。テイラーの「承認の政治」は多文化主義の文脈で、文化的アイデンティティが公的に承認されることの道徳的重要性を説いた。

【歴史的展開】

1980年代に自由主義対共同体主義論争として学術的に展開した(サンデル「自由主義と正義の限界」1982年、マッキンタイア「美徳なき時代」1981年)。論争は徐々に整理され、多くの「共同体主義者」は自由主義の枠内での修正を目指しているとして、双方の立場が相互補完的に理解されるようになった。多文化主義・承認の政治(テイラー、ホネット)という形で現代的展開を見せた。

【現代社会との接点】

グローバル化が地域共同体・伝統文化を解体する中で、「帰属感の喪失」「つながりの喪失」が精神的健康問題や社会的孤立と関連するという議論は共同体主義的問題意識と共鳴する。地域コミュニティ再生・ソーシャルキャピタルの重視・「関係人口」という概念も同様である。

【さらに学ぶために】

サンデル『リベラリズムと正義の限界』(菊池理夫訳、勁草書房)は論争の出発点。マッキンタイア『美徳なき時代』(篠崎榮訳、みすず書房)は伝統的徳倫理への回帰を論じる。チャールズ・テイラー『承認をめぐる政治』(佐々木毅ほか訳、岩波書店)は多文化主義の哲学的基礎。

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