『自然学』
しぜんがく
アリストテレス·古代
運動と変化の理論を四原因説と場所論で構築した古代自然哲学の出発点
この著作について
アリストテレス(Ἀριστοτέλης)が紀元前4世紀に著した自然哲学の主著(原題『Φυσικὴ ἀκρόασις』)。全八巻からなり、運動・変化・時間・場所・無限・自然法則一般を扱う、西洋自然哲学の出発点に位置する記念碑的著作である。
【内容】
第一巻・第二巻は方法論と基本概念を論じ、自然物の本性(ピュシス)、四原因説(質料因・形相因・作用因・目的因)、偶然と必然の区別を示す。第三巻・第四巻は運動の定義、無限の概念、場所・虚空・時間の本性を論じ、とりわけアリストテレスの有名な時間定義「運動の数、前と後の観点における」が提示される。第五巻は運動の種類を分類し、第六巻では連続性と分割可能性、ゼノンのパラドックスへの応答が展開される。第七巻は動かすものと動かされるものの相関を論じ、第八巻では永遠運動と「不動の動者」へと議論が進む。四元素論(土・水・空気・火)、天上と地上の二分法、目的論的自然観が、以後二千年の西洋宇宙論を規定する枠組みとしてここで整備される。
【影響と意義】
本書はアヴェロエス・イブン・シーナーを経由して中世スコラ哲学に継承され、トマス・アクィナス『自然学註解』を通じて十三世紀以降の大学カリキュラムの中核となった。ガリレオ・デカルト・ニュートンの近代自然科学は本書の内容を乗り越える形で成立したが、形而上学的背景としてのアリストテレス自然哲学は、ハイデガーによる再解釈、現代のネオ・アリストテレス主義(ハーマン、フット、フィリッパ・フットの倫理学)を通じて復活している。
【なぜ今読むか】
還元主義と機械論の物理学に慣れた現代人にとって、物事を目的・形相・運動そのものとして捉える本書の語彙は、環境・生命・AIを考える新しい語彙の源泉となりうる。