『政治学』
せいじがく
アリストテレス·古代
人間は本性的にポリス的動物であると論じた政治学の古典
この著作について
アリストテレスが国家のあり方を根本から問い直した、西洋政治学の出発点に立つ書。「人間は本性からしてポリス(国家共同体)の中で生きる動物である」という有名な一句から始まる。
【内容】
家族から村落、そしてポリスへと共同体が自然に育っていく過程を描き、そのうえで現実の国家を分類していく。君主政・貴族政・共和政という健全な形と、その堕落である僭主政・寡頭政・民主政を比較し、それぞれの長所と崩れる条件を史実に即して分析する。革命がなぜ起こるのかを論じる巻は具体例に富み、最後には市民をどう教育すべきかという理想国家論へと進む。奴隷制を自然と認める議論など、現代から見て受け入れがたい部分も率直に残っている。
【影響と意義】
アリストテレスは150を超える都市国家の制度を実地に調べ、その経験のうえで本書を書いた。政治を倫理の延長にありながら独自の実践的学問として独立させた功績は大きい。混合政体の発想はローマの共和政理論を経てマキャヴェッリに届き、さらにアメリカ建国期の憲法思想にまで流れ込んでいる。
【なぜ今読むか】
民主政の弱点、ポピュリズム(大衆迎合政治)、格差と革命の関係など、2400年前の分析が現代の政治報道とそのまま重なる。理想を語りながら現実から目をそらさない姿勢は、政治に疲れた読者にも冷静さを取り戻させる。
さらに深く
【内容のあらまし】
第1巻は家政論から始まる。男女の結合が家を、家の集まりが村を、村の集まりがポリスを生み、人間はその完成形態のなかでこそ自己を実現すると説く。「人間はポリス的動物である」という命題はこの文脈で出てくる。同時に奴隷制の自然性も論じられ、自分を統治する理性を欠く者は他人に統治されるのが自然だとされる。家政の技術と利殖の技術が区別され、貨幣を目的とする商売は批判される。
第2巻はプラトンの『国家』『法律』を含む先行する理想国家論を批判的に検討する。家族と財産の共有が現実には人間の心理に合わないと指摘する箇所は鋭い。第3巻はポリスと市民の定義を扱う。市民とは支配と被支配を交代で担う者であり、政体は誰が共通の利益のために統治するかで六種類に分類される。一人なら王制、少数なら貴族制、多数なら共和制、それぞれの堕落形態が僭主制・寡頭制・民主制となる。
第4巻から第6巻は現実の政体分析である。アリストテレスは150以上のポリスの制度を集めた経験を持ち、抽象論ではなく実例に裏づけられた議論を展開する。富裕層と貧困層の対立をどう調停するかが鍵で、中産階級が厚い「中庸的な」共和制が最も安定する。第5巻は革命論にあてられる。革命の原因として平等観の食い違い、利益と名誉の不均衡、過度の権力集中などを挙げ、君主制から民主制までそれぞれが崩れる典型的な経路を歴史例とともに辿る。為政者への警告がそのまま読者へのリアリズムの講義になっている。
第7巻と第8巻は再び理想国家を構想する。土地の広さ、人口、地形、市民の徳と教育が論じられる。子どもへの音楽教育の章では、楽器選びや旋法の倫理的効果まで踏み込む。ここでアリストテレスの倫理学と政治学はぴたりと噛み合う。良い人間を育てる場所としてのポリスを設計しなければ、徳ある生は実現しないからだ。本書は未完で終わるが、現実の政体分析と理想の構想が一つの目で貫かれている点で、政治学の出発点となる風格を備える。