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現代西洋

マーサ・ヌスバウム

Martha Nussbaum

1947年存命

ケイパビリティ・アプローチの政治哲学者

ケイパビリティ正義論感情の哲学
ヌスバウム

この人物について

人間の「潜在能力」に着目し、正義と人間の尊厳を哲学的に基礎づけるケイパビリティ・アプローチの理論家。

【代表的な思想】

■ ケイパビリティ・アプローチ

アマルティア・センとともに発展させた理論。人間の福祉は所得やGDPではなく、「何ができるか・何になれるか」という潜在能力で測られるべきだとした。生命、身体的健康、感情、実践理性など十の中心的ケイパビリティのリストを提示した。

■ 感情の認知的理論

感情は単なる非合理的衝動ではなく、価値判断を含む認知的活動であると論じた。怒りや悲しみといった感情は、何が重要であるかについての判断を体現しており、倫理的推論に不可欠であるとした。

■ 政治的リベラリズムの拡張

ロールズの正義論を補完しつつ、障害者の権利、動物の権利、国際正義など、社会契約論が十分に扱えなかった領域にケイパビリティの観点から切り込んだ。

【特徴的な点】

アリストテレスの「人間の繁栄」の観点を現代の正義論に統合した。功利主義がすべてを効用に還元するのに対し、人間の尊厳に基づく多元的な価値を擁護する。ロールズが「手続き的正義」を重視したのに対し、実質的な成果を問う点で異なる。

【現代との接点】

国連の人間開発指数(HDI)の理論的基盤となり、ジェンダー平等や教育政策、障害者支援など、グローバルな社会政策に直接的な影響を与えている。

さらに深く

【思想の形成】

マーサ・ヌスバウム(1947〜)は、ニューヨーク市の裕福なプロテスタントの家に生まれた。ニューヨーク大学で古典学を学び、ハーヴァード大学で古代ギリシア哲学の博士号を取得した。アリストテレスとストア派徳倫理、悲劇の倫理的読解を出発点としつつ、ハーヴァードで女性として初の古典学教授となる過程で体験した差別が、ジェンダーとマイノリティの正義への感度を育てた。1980年代以降、国連大学の開発経済学研究所でアマルティア・センと協働し、貧困と女性の地位をめぐるインドでの実地調査を重ねた。この経験が、抽象的徳倫理学を現実の制度設計と接続するケイパビリティ・アプローチへと結晶する。現在はシカゴ大学ロー・スクールで哲学と法学を横断して教えている。

【思想的意義】

核心は、人間の豊かな生を所得や主観的満足ではなく、実際に何ができるか・どういう人になれるかという潜在能力の集合として捉え直した点にある。生命、身体的健康、身体的統合性、感覚・想像力・思考、感情、実践理性、他者との連帯、他の種との共存、遊び、自己の環境に対する制御という十項目のリストは、どの文化にあっても人間的尊厳に値する生の下限を示す規範的指標として提示された。感情と法怒りと赦しでは、感情を非合理的衝動ではなく価値判断を含む認知として再定位し、恥や嫌悪を政治的排除の駆動因として分析した。文学的想像力が他者の視点を引き受ける能力を育てるという主張は、教育論としても結実している。

【影響と継承】

国連開発計画の人間開発指数はセンとの協働の延長線上にあり、SDGsの思想的背景を成している。センは普遍的リストの固定化に慎重であり、両者の方法論的差異は能力論を豊かに複数化してきた。フェミニズム倫理、障害の正義、動物の正義、法哲学における感情論の展開に対し、ヌスバウムの仕事は実践的な参照点であり続けている。

【さらに学ぶために】

神島裕子《かみしまゆうこ》正義とは何か:現代政治哲学の6つの視点が日本語の入門として有用である。豊かさや尊厳を金銭以外の尺度で測る語彙を探すとき、ヌスバウムのリストは実践的な道具となる。

近い哲学者

影響を受けた人物

関連する著作

著作感情と法:現代アメリカ社会の政治的リベラリズム

嫌悪と恥を法・政治の場で批判的に分析する

著作怒りと赦し:憤激、寛容と正義

報復的怒りを未来志向の正義へ転換する条件を論じる

著作女性と人間開発

ケイパビリティ・アプローチをグローバル正義に応用したヌスバウムの代表作

著作正義とは何か:現代政治哲学の6つの視点神島裕子

現代正義論の主要論者を6つの視点で整理する入門書

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