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イスラム教

唯一神アッラーへの帰依と法・知の体系

文化・宗教一神教中東

この思想とは

神への絶対的帰依と律法・学問の統合を特徴とする一神教。

【生まれた背景】

7世紀のアラビア半島で預言者ムハンマドが啓示を受け、クルアーンを聖典として成立した。ユダヤ教・キリスト教の伝統を継承しつつ独自の体系を築いた。

【主張の内容】

六信五行を基本とし、信仰と日常生活を包括するシャリーアを持つ。イブン・シーナーはアリストテレス哲学を体系化し、イブン・ルシュドは信仰と理性の調和を論じて西洋スコラ学に影響を与えた。スーフィズムは神との合一を求める神秘主義的実践を展開した。学問・医学・数学の発展にも大きく寄与した。

【日常での例】

礼拝や断食の規律、ハラール食品、利子禁止の金融制度など現代社会にも広く影響している。

【批判と限界】

近代化との緊張、政教分離の問題、過激主義との混同による偏見が課題である。

さらに深く

【思想の深層】

イスラム教の哲学的核心は「タウヒード(神の唯一性)」にある。アッラーは絶対的に唯一であり、いかなるものも神と並べることはできない(シルク=多神崇拝は最大の罪)。人間は神の代理人(ハリーファ)として地上に置かれており、神の意志(シャリーア)に従って生きる責任がある。六信(神・天使・聖典・預言者・来世・神の定め)と五行(信仰告白・礼拝・断食・喜捨・巡礼)が信仰の基本構造をなす。「ジハード」は本来「努力・奮闘」を意味し、内なる自己との闘い(大ジハード)が本質とされる。イスラム哲学(ファルサファ)は9〜12世紀の黄金時代にアリストテレス哲学をアラビア語に翻訳・継承し、イブン・シーナー(医学・存在論)、イブン・ルシュド(アリストテレス注釈)らが西洋スコラ哲学に多大な影響を与えた。

【歴史的展開】

ムハンマドが610年頃メッカで最初の啓示を受け、622年のヒジュラ(メディナへの移住)をもってイスラム暦が始まる。632年のムハンマドの死後、カリフ制(アブー・バクル以降)が成立。スンニ・シーア分裂(680年のカルバラーの戦い)は今日に至る最大の宗派分裂である。ウマイヤ・アッバース朝の時代に「翻訳運動」でギリシア哲学がアラビア語訳され、イスラム科学が飛躍的に発展した(代数・天文学・医学)。13世紀のモンゴル侵攻によるバグダード陥落が転換点となり、オスマン帝国・ムガル帝国・サファヴィー朝の時代を経て近代のイスラム主義(ムスリム同胞団・ワッハーブ主義など)へ。

【現代社会との接点】

世界のムスリム人口は約19億人(世界人口の約24%)であり、最も成長している宗教の一つである。イスラム法(シャリーア)の現代国家法体系との関係、すなわち政教分離とイスラム国家の間の緊張は中東・北アフリカ・東南アジアの政治の核心的問題である。金融ではリバー(利子)の禁止に基づく「イスラム金融」が成長分野となっている。移民・文化的多様性・テロリズム(一部過激主義との混同)など、西洋社会でのイスラムへの誤解と対話の課題も重要である。井筒俊彦のアラビア語・イスラム哲学研究は日本における最高の学術的蓄積の一つである。

【さらに学ぶために】

井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』(岩波文庫)はイスラム哲学への日本語での最良の入門書。コーランは中公文庫の井筒俊彦訳が日本語で最も優れた訳とされる。内藤正典『イスラームから見た「世界史」』(NHKブックス)は現代のイスラム世界を歴史的に理解する入門書として優れている。

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