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啓蒙思想

理性の光で迷信と専制を打破しようとした知的運動

社会思想理性近代

この思想とは

理性と科学の力で無知・迷信・専制からの解放を目指した近代の知的潮流。

【生まれた背景】

17世紀の科学革命を受け、18世紀のヨーロッパで理性による社会改革の機運が高まった。旧体制(アンシャン・レジーム)の矛盾が深刻化する中、知識人たちが変革を求めた。

【主張の内容】

カントは「自分自身の理性を使う勇気を持て」と啓蒙を定義した。ヴォルテールは宗教的不寛容と権力の専横を批判し、モンテスキューは権力分立論を提唱した。ルソーは社会契約説と人民主権を説き、ロックは自然権と政府の正統性を論じた。百科全書派は知識の体系化と普及を通じて社会変革を目指した。人権・民主主義・法の支配の思想的基盤となった。

【日常での例】

「知識は力なり」「自分の頭で考えろ」という価値観は啓蒙思想の直系である。

【批判と限界】

西洋中心主義・理性万能主義への批判があり、植民地主義の正当化に利用された面もある。

さらに深く

【思想の深層】

カントは1784年の小論「啓蒙とは何か」でその本質を定義した。「啓蒙とは、人間が自分自身の未成熟から抜け出すことである。未成熟とは、他者の指導なしに自分の理性を用いることができない状態だ」。「あえて知ろうとせよ(Sapere aude)」というホラティウスの言葉が啓蒙の標語とされた。啓蒙思想は「理性・自由・進歩・寛容・人権」という価値の星座を形成する。迷信・権威・伝統に代わって理性と経験によって世界を理解・改善できるという信念が基盤にある。社会契約論(ロック・ルソー・ホッブズ)は政治的正統性の根拠を神授権や慣習ではなく、人々の同意に置いた。分権・三権分立(モンテスキュー)、信仰の自由・言論の自由(ロック・ヴォルテール)、普通教育(ルソー・コンドルセ)という理念が啓蒙思想から生まれた。

【歴史的展開】

17世紀の科学革命(ニュートン)が知的背景をなし、18世紀にフランスの「フィロゾーフ」(ヴォルテール・ルソー・ディドロ・モンテスキュー)がその中心を担った。ディドロとダランベールが編纂した『百科全書』(1751〜72年)は啓蒙思想の集大成であり、知識の民主化という啓蒙の精神を体現した。イギリスではロック・ヒューム・スミスが独自の啓蒙を展開し、スコットランド啓蒙(アダム・スミスの道徳哲学・経済学)は近代経済学の起源となった。アメリカ独立宣言(1776年)とフランス革命(1789年)は啓蒙思想の政治的結実であり、20世紀の全体主義・二度の世界大戦は啓蒙の「理性の暗黒面」(ホルクハイマー・アドルノ『啓蒙の弁証法』)への批判をもたらした。

【現代社会との接点】

スティーブン・ピンカーは『21世紀の啓蒙』(2018年)で、啓蒙の価値観(理性・科学・ヒューマニズム・進歩)こそが貧困・暴力・病気・無知の減少をもたらしてきたと論じ、ポスト啓蒙的な相対主義や反知性主義を批判した。民主主義・政教分離・学問の自由・人権という現代の基本的制度は啓蒙思想の直接的な産物である。一方、フーコー・デリダらポスト構造主義者は啓蒙の「理性」が権力・排除・植民地主義と結びついていることを批判した。現代のフェイクニュース・陰謀論への対抗という文脈でも啓蒙的な「理性と証拠に基づく判断」の価値が問われている。

【さらに学ぶために】

カント「啓蒙とは何か」は数ページの小論文で、岩波文庫『啓蒙とは何か』(中山元訳)に収録されている。ロック『統治二論』(加藤節訳、岩波文庫)は近代民主主義の古典的テキスト。スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』(橘明美・坂田雪子訳、草思社)は啓蒙思想の現代的擁護として話題を呼んだ大著。

代表人物

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