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ヒューマニズム

人間の尊厳と理性を中心に据える思想

倫理学人間性尊厳

この思想とは

人間の理性・尊厳・可能性を最も重要な価値として据える思想的立場。

【生まれた背景】

14世紀イタリアのルネサンス期、教会中心の中世的世界観に対して、古代ギリシア・ローマの人間中心の文化を再発見する運動として始まった。ペトラルカやエラスムスらが古典研究を通じて人間の知性と創造力を称揚した。

【主張の内容】

人間は神や自然の単なる従属物ではなく、理性と自由意志によって自己を形成できる存在である。教育と学問を通じた人格の陶冶を重視し、人間の尊厳は普遍的で不可侵のものとする。近代以降はサルトルの実存的ヒューマニズムや世俗的ヒューマニズムへと展開し、宗教に頼らない倫理の基盤ともなった。

【日常での例】

「一人ひとりの人権は何があっても守られるべきだ」という考えの根底にはヒューマニズムの精神がある。

【批判と限界】

人間中心主義が環境破壊を正当化してきたという批判がある。またポスト構造主義は「人間」という概念自体が西洋近代の構築物であると問い直した。

さらに深く

【思想の深層】

ヒューマニズム(人文主義・人道主義)は広義には「人間の尊厳・理性・可能性への信頼と尊重」を核心とする思想の総称だが、歴史的に二つの主要な形態を持つ。①ルネサンス人文主義:中世のスコラ的・神学中心の学問に対して、古典ギリシア・ローマの文学・哲学・修辞学(studia humanitatis)を復興させようとする文化・教育運動。ピコ・デラ・ミランドラの「人間の尊厳について」(1486年)は「人間は自由に自分の本性を選ぶ能力を神から与えられた」と宣言し、人間の自己形成の可能性を讃えた。②世俗的ヒューマニズム:宗教的権威に依拠せず、理性と科学と民主主義によって人間の尊厳と倫理を基礎づける現代的立場。超自然的な神の存在を前提とせずに意味・価値・道徳を構築しようとする。

【歴史的展開】

14世紀のペトラルカが古典古代への回帰を訴えてルネサンス人文主義の端緒を開き、エラスムス(『痴愚神礼讃』)がキリスト教人文主義として宗教改革とも接続した。啓蒙思想はヒューマニズムを理性・科学・進歩の信念と結びつけ、19世紀の実証主義・進化論(人間の自然的起源)はその世俗化を加速した。20世紀には「世俗的ヒューマニズム宣言」(1933年、1973年)として体系化された。一方、ハイデガーは「人文主義への手紙」(1947年)でヒューマニズムが「存在の問い」を忘れて技術的・主体中心的になったと批判し、フーコーは「人間の死」を宣言して人文主義的主体の解体を論じた。

【現代社会との接点】

国連の人権宣言(1948年)は「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」とするヒューマニズムの原則を国際法の基礎とした。世俗的ヒューマニズムは現代の無宗教・不可知論者の増加に伴い、宗教なしに倫理的に生きる哲学として注目される。トランスヒューマニズムは人間の現在の限界を超えようとする点でヒューマニズムの超克(ポストヒューマニズム)として位置づけられる。これに対して伝統的ヒューマニズムは人間の有限性こそが尊厳の根拠だと応答する。ハラリは「ホモ・デウス」において、ヒューマニズムが次の時代にアルゴリズムとデータ主義に取って代わられる可能性を論じた。

【さらに学ぶために】

ピコ・デラ・ミランドラ『人間の尊厳について』(大出哲ほか訳、国文社)はルネサンス人文主義の宣言書として最良の一次資料。エラスムス『痴愚神礼讃』(渡辺一夫訳、中公文庫)は軽妙な筆致でルネサンス人文主義の精神を体現する。ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(柴田裕之訳、河出書房新社)はヒューマニズムの歴史的役割と将来への問いを壮大なスケールで論じる。

代表人物

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