啓蒙運動
けいもううんどう
近代
理性と批判の精神で宗教的権威を乗り越えた18世紀の思想運動
この出来事について
17世紀末から18世紀の欧州を横断し、理性と批判精神による人間と社会の再定義を目指した思想運動。
【何が起きたか】
科学革命の成果を受けて、理性を最高の審級とする態度が広がった。フランスではヴォルテール・ディドロ・ルソーらが『百科全書』を軸に伝統的権威を批判し、ドイツではカントが「啓蒙とは何か」で「自分の理性を使う勇気を持て」と呼びかけた。イギリス・スコットランドではヒュームやスミスが、道徳と経済の合理的分析を展開した。
【思想への影響】
理性・自由・進歩・寛容・人権といった近代思想の中核概念がこの運動で体系化された。社会契約論、自然権、三権分立、国民主権の観念が整備され、アメリカ独立宣言やフランス人権宣言の思想的土台となった。批判哲学・自律的主体・市民社会といった観念もここから生まれた。
【現代とのつながり】
現代の自由民主主義・人権・公教育・科学的世界観の骨格は啓蒙運動に由来する。一方で、フランクフルト学派は『啓蒙の弁証法』で、啓蒙的理性が道具的理性に堕して抑圧を生む危険を指摘した。啓蒙の功罪を問い直す作業は現代も続いている。
さらに深く
【背景の深層】
啓蒙運動は国ごとに異なる顔を持つ複合的な思想運動だった。フランス啓蒙は『百科全書』と反聖職者主義を特徴とし、ヴォルテールやディドロ、ダランベール、そして独自の立場から文明批判を行ったルソーに代表される。ドイツ啓蒙はライプニッツ・ヴォルフの合理主義を経てカントの批判哲学に結晶し、敬虔主義との緊張関係の中で独自の内省性を持った。スコットランド啓蒙はヒューム・スミス・ファーガソン・リードに代表され、社会学的・経済学的・道徳感情論的思考を発達させた。アメリカ啓蒙はジェファソン・フランクリン・マディソンらの実践的合理主義として政治制度に結実した。イタリアではベッカリーアが『犯罪と刑罰について』で近代刑法の基礎を据え、ナポリではヴィーコが歴史哲学の新しい視野を開いた。サロンやコーヒーハウス、フリーメイソンといった公共圏の成立が知的交流の制度的基盤となった。
【影響の広がり】
啓蒙は単に「中世の闇を照らした光」ではなく、その後の思想史に両面的な遺産を残した。一方ではカント『永遠平和のために』の世界市民構想、人権思想、民主主義、世俗的倫理学の基盤を提供した。メアリ・ウルストンクラフト『女性の権利の擁護』は啓蒙の普遍主義を女性に押し広げる試みとなった。他方でホルクハイマー・アドルノ『啓蒙の弁証法』は、啓蒙的理性が道具的理性に転落し全体主義に至る危険を指摘した。フーコー、デリダ、リオタールらのポストモダン思想は啓蒙の普遍主義を批判し、ハーバーマスは啓蒙を「未完のプロジェクト」として擁護した。ポストコロニアル批評は啓蒙の普遍性に隠された西洋中心主義を暴いた。啓蒙をどう評価するかは現代思想の主要な論点であり続けている。
【さらに学ぶために】
カント『啓蒙とは何か』は短い論考で啓蒙精神の核を読める古典である。ホルクハイマー・アドルノ『啓蒙の弁証法』は啓蒙の負の側面を掘り下げる20世紀の重要批判書である。
関連する哲学者
カント
義務論と批判哲学の大成者
「啓蒙とは何か」で啓蒙運動の理念を哲学的に定式化した
ヴォルテール
寛容と理性を説いた啓蒙主義の旗手
フランス啓蒙の象徴として宗教・権威への批判を展開した
ルソー
社会契約と自然人の啓蒙思想家
『社会契約論』『エミール』で啓蒙思想の政治・教育的展開を担った
ディドロ
『百科全書』を編纂した啓蒙思想の推進者
『百科全書』編纂を通じ啓蒙運動の知の総合を牽引した