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ひゃっかぜんしょ

ディドロ·近代

啓蒙思想の精神を結集した知の大事業

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科学

この著作について

ディドロとダランベールが中心となって20年以上をかけて編纂した、18世紀フランス啓蒙主義を象徴する大百科事典。

【内容】

全28巻、本文17巻と図版11巻に及ぶ壮大な知の集大成。ヴォルテールモンテスキュールソーら当代一流の知識人が執筆に参加した。単なる知識の集積ではなく、理性と批判精神に基づいてあらゆる学問を再編成しようとした点が画期的で、冒頭の「序論」で知識の体系樹が示される。宗教的権威や旧来の偏見への暗黙の批判が、一見中立的な項目の記述の中に巧みに織り込まれている。

【影響と意義】

一冊の大著ではなく、多数の知識人が協働して公開知を編むというスタイルそのものが近代の知の形を決定づけた。啓蒙思想の普及に大きく貢献し、フランス革命の知的基盤を準備した。知識を体系化し誰にでも開かれたかたちで共有するという精神は、現代のWikipediaにも脈々と受け継がれている。

【なぜ今読むか】

技術・工芸の精緻な図版は美術的にも価値が高く、18世紀の知的熱気をそのまま感じ取れる。「知を開く」ことの政治性と可能性を考えるとき、200年前のこの大事業は今もなお示唆に富む。

さらに深く

【内容のあらまし】

この大事業はもともと英国チェンバーズの百科事典の翻訳企画として始まった。だがディドロとダランベールが指揮を引き受けると、構想は一気に膨らみ、知の全領域を理性の光のもとに再編成する野心的計画へと変貌する。1751年に第1巻が刊行され、本文17巻と図版11巻が完結するまで20年以上が費やされた。

ダランベールが書いた「序論」は、本書の知的見取り図である。フランシス・ベーコンに倣い、人間の認識能力を記憶・理性・想像の三つに分け、それぞれに歴史・哲学・芸術を対応させて知識の体系樹を描く。神学を最上位に置く伝統的配列が崩され、人間の精神能力に基づく分類が静かに据えられているところに、本書の革命性が滲む。

本文を開くと、職人の作業や機械の構造を描いた図版の精緻さに驚かされる。鍛冶屋の道具、製紙工程、織機の歯車、外科器具まで、手と機械の世界が緻密に描き分けられる。手仕事と科学を同じ知の地平で扱う姿勢は、当時の貴族的な学問観への明確な異議申し立てだった。

項目には、無害な見出しの裏に鋭い批判が忍ばせてある。「寛容」「権威」「主権」などの政治用語、聖書や教義に関わる項目には、検閲をすり抜けるための韜晦と相互参照が張り巡らされている。ある項目の末尾の「→ 〇〇を見よ」をたどると、表向きの記述とは正反対の見解にたどり着く、という仕掛けも珍しくない。

執筆陣にはヴォルテール、ルソー、モンテスキュー、ケネー、ビュフォン、ジョクールら当代の知識人が名を連ねた。発禁と再開を繰り返しながらも完結したこの集合知の試みは、知識を権威から市民の手へと移す象徴的な事件であり、近代の公共圏が本のかたちで現れた最初の瞬間だった。

著者

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