
アウグスティヌス
Augustine of Hippo
354年 — 430年
恩寵と告白の教父哲学者
この人物について
放蕩の青年時代から劇的な回心を経て、キリスト教思想の土台を築いた西方教会最大の教父。内面の告白という文学形式を創始した「魂の探求者」。
【代表的な思想】
■ 恩寵《おんちょう》と原罪
人間はアダムの原罪により本性的に堕落しており、神の恩寵(一方的な恵み)なしには善を為しえないとした。自力救済を否定し、救いは神の自由な選びによるという恩寵論は、後のプロテスタント改革にも決定的な影響を与えた。
■ 『告白』と内面性の哲学
自伝的著作『告白』で自己の罪と回心を赤裸々に語り、内面への沈潜という哲学的方法を切り拓いた。記憶・時間・意志についての考察は、近代的な自己意識の哲学の先駆である。
■ 二つの国
『神の国』で地上の国(世俗的な欲望に基づく社会)と神の国(神への愛に基づく共同体)を区別し、歴史を神の摂理のもとで捉える壮大な歴史哲学を展開した。
【特徴的な点】
ギリシア哲学が理性による真理の探究を重視したのに対し、アウグスティヌスは信仰と内面的体験を哲学の出発点とした。新プラトン主義とキリスト教の融合という知的偉業を成し遂げた。
【現代との接点】
自伝的な内省の文学や実存的な不安の哲学の源流として、キルケゴールやハイデガーにつながる。自由意志と決定論の問題は、現代の脳科学や倫理学でも核心的なテーマである。
さらに深く
【思想の形成】
アウレリウス・アウグスティヌスは354年、北アフリカのタガステ(現アルジェリア)に生まれた。母モニカは敬虔なキリスト教徒であったが、若きアウグスティヌスは修辞学を学びながら放蕩の日々を送り、善悪二元論のマニ教に九年間傾倒した。カルタゴ、ローマを経てミラノで弁論術の教師となり、新プラトン主義の書物とアンブロシウス司教の説教に導かれて信仰的関心を深めていく。386年、庭で「取りて読め、取りて読め」という子供の声を聞き、聖書のパウロ書簡の一節に触れて劇的な回心を経験した。洗礼を受けて北アフリカに戻り、やがてヒッポの司祭・司教として教会の指導者となる。ドナティスト論争やペラギウス論争で精力的に著述を続け、430年にヴァンダル族がヒッポを包囲する中で没した。
【思想的意義】
『告白』は自伝と神への祈りと哲学的省察を織り合わせた空前の作品で、西洋における内面の発見を告げる書物となった。第11巻の時間論は哲学史上屈指の考察として名高い。過去はもはや存在せず未来はまだ存在しないが、「過去の現在(記憶)」「現在の現在(直視)」「未来の現在(期待)」として時間は魂の伸張として存在する。『神の国』ではローマ略奪を背景に、地上の国と神の国という二つの共同体の対比を通じて歴史哲学を構想した。恩寵《おんちょう》と自由意志をめぐるペラギウスとの論争では、人間の救済は自力の修養ではなく神の恩寵によるとする立場を示し、以後の西方キリスト教神学の基調を決定づけた。原罪論はここに定着する。
【影響と継承】
アウグスティヌスの著作群は中世西欧の精神的基盤となり、アンセルムス、トマス・アクィナス、ボナヴェントゥラなどスコラ学の巨匠たちに繰り返し読まれた。宗教改革期にはルターとカルヴァンが恩寵論を再発見して宗教改革神学の核に据え、近代ではデカルトの「我思う」の先駆として、またパスカルの人間観の源泉としても読まれた。時間論はフッサールの内的時間意識論やハイデガーの時間性の分析に受け継がれ、20世紀の現象学にも鮮烈な影響を与えた。現代でもアレントの博士論文が愛の概念をアウグスティヌスに即して論じたように、内面性と共同体をつなぐ古典として読まれ続けている。
【さらに学ぶために】
『告白』は山田晶《やまだあきら》訳(中公文庫、抄訳)が読みやすく、自伝的回想と哲学的考察が織り合わされた古典の入口として最適である。『神の国』は大部だが、服部英次郎・藤本雄三訳(岩波文庫)で段階的に読み進められる。入門書として山田晶『アウグスティヌス講話』を薦めたい。
主な思想
影響を受けた人物
影響を与えた人物
アウグスティヌス神学を継承
アウグスティヌスのキリスト教神学はトマス・アクィナスに継承され、スコラ学の基盤となった
予定説・原罪論はアウグスティヌスの神学を継承
アウグスティヌス神学の継承
博士論文の対象、誕生性概念
アンセルムスはアウグスティヌスの神学的伝統を継承し、信仰と理性の調和を追求した
ジャンセニスム経由でアウグスティヌス神学を受容
コギトの先駆 si fallor sum
アウグスティヌスの内面への転回と神の内在性がエックハルトの魂の根底論に影響した
内面的告白・実存的信仰の系譜
内的時間意識・現存在分析の源泉
アウグスティヌスのキリスト教新プラトン主義がボエティウスに影響を与えた















