『神の国』
かみのくに
アウグスティヌス·古代
ローマ陥落を契機に歴史神学を基礎づけた大著
この著作について
アウグスティヌスが410年のローマ陥落を契機に、426年まで十数年かけて書き継いだ全22巻の大著。異教徒から「キリスト教がローマを弱体化させた」との批判に応えるために起筆された歴史神学の古典。
【内容】
前半10巻は、ローマの盛衰を支えてきた多神教の神々を論駁し、ローマの繁栄もその崩壊もキリスト教のせいではないと論じる。後半12巻で、人類の歴史を「地の国」と『神の国』という二つの愛に根ざす共同体の闘争として描き直す。地の国は自己愛と支配欲に動かされる現世の諸国家、神の国は神への愛に動かされる選ばれた者たちの共同体である。両者は終末の時まで現世で混じり合い、最後の審判で分かたれる。
【影響と意義】
西洋の歴史哲学の源流とされ、中世ヨーロッパの政治神学、二つの剣の理論、教会と国家の関係論の基礎になった。近代の歴史進歩主義、マルクス主義の歴史観までも、この二元論的な歴史叙述の遠い子孫として読むことができる。
【なぜ今読むか】
政治的共同体を相対化し、それを超える視点から歴史を問うアウグスティヌスの姿勢は、ナショナリズムが再燃する現代にも示唆が多い。国家の権威に絶対性を与えない思考の原型として読みたい。
さらに深く
【内容のあらまし】
四一〇年、西ゴート族のアラリックがローマを略奪したという報せは地中海世界を震撼させた。永遠の都が蛮族に踏みにじられたのは、伝統的な神々を捨てキリスト教を国教化した報いではないか。こうした非難に応えるためアウグスティヌスは筆をとる。本書は二十二巻に及ぶ大著で、執筆には十数年が費やされた。前半十巻は反論編、後半十二巻は構築編という二部構成をとる。
前半でアウグスティヌスは、ローマ建国以来の歴史を冷静に振り返る。サビニ族の女たちの略奪、共和政期の内乱、ハンニバル戦争、暴君たちの治世。ローマは多神教の時代にも繰り返し災厄に見舞われており、平和も繁栄もキリスト教の責任ではない。続いて彼は、ウァロやキケロらローマ思想家が伝える神々の体系を徹底的に吟味し、英雄を神格化した家系神も、抽象的な国家の守護神も、人間に真の幸福を与える力を持たないと論じる。プラトン主義者たちが求めた最高善も、受肉と恩寵を欠くかぎり中途で終わる。
後半でアウグスティヌスは、人類の歴史を「地の国」と「神の国」という二つの愛に動かされる共同体の交錯として描き直す。地の国は自己愛と支配欲に動かされ、神の国は神への愛と隣人への愛に動かされる。両者は地上では分かちがたく混じり合っており、教会の中にも地の国の住人がおり、地上の権力の中にも神の国の市民が紛れている。創世記のカインとアベルから出発して、エジプト、バビロン、イスラエル、ローマと歴史を辿りながら、彼は二つの都市の系図を並べていく。
終わり近く、最後の審判と復活の身体、永遠の罰と永遠の浄福が論じられる。地の国の繁栄はいつか終わるが、神の国の住人は終わりの日に肉体を伴って復活し、神を観想する安息に入る。地上の国家は相対化され、教会も地の国の制度ではなく神の国の前哨地として位置づけ直される。蛮族の侵入を歴史の終末とは見ず、もっと長い時間軸のなかで意味を読み直そうとする視座が、本書の遺産となった。
著者
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