ナショナリズム
民族・国民の一体性と自決権を重視する思想
この思想とは
民族や国民の一体性・独自性・自決権を最も重要な政治的価値とする思想・運動。
【生まれた背景】
18世紀末のフランス革命とナポレオン戦争が国民意識を覚醒させ、19世紀にはイタリア・ドイツの統一運動、バルカンの民族独立運動として展開した。印刷資本主義の普及が国語を通じた共同体意識を醸成した。
【主張の内容】
共通の言語・文化・歴史・血統を持つ「民族」が政治的自決の権利を持ち、一つの国家を形成すべきとする。ヘルダーは各民族の文化的固有性(フォルクスガイスト)を称揚し、フィヒテは『ドイツ国民に告ぐ』で民族的覚醒を訴えた。アンダーソンは国民を「想像の共同体」として分析し、ゲルナーは産業化と標準教育がナショナリズムを生み出すと論じた。市民的ナショナリズム(政治的意思による統合)とエスニック・ナショナリズム(血統・文化による統合)の区別がある。
【日常での例】
オリンピックで自国を応援する高揚感にはナショナリズム的感情が含まれる。
【批判と限界】
排外主義・民族浄化への転化、多民族社会での排除、植民地支配の正当化に利用された歴史がある。
さらに深く
【思想の深層】
ナショナリズムの哲学的問いは「ネーション(国民・民族)とは何か」にある。ゲルナーは「ネーションはナショナリズムが作り出す」と逆説的に主張した。産業化社会では文化的均質性・識字能力・共通言語を持つ「国民」の形成が経済的に必要であり、ナショナリズムはこの必要から生じた。アンダーソンは「想像の共同体」という概念を提示した。ネーションは実際に顔を合わせたことのない人々が「同じ共同体のメンバーである」と想像することで成立する。印刷資本主義(新聞・小説の普及)が共通言語とナショナルな同時性の感覚を生み出した。ヘルダーはロマン主義的立場から、各民族は固有の精神(フォルクスガイスト)を持つという文化多元主義を提唱し、普遍的な啓蒙理性への抵抗としてナショナリズムを擁護した。市民的ナショナリズム(フランス型:政治的意志による統合)とエスニック・ナショナリズム(ドイツ型:血統・文化による統合)の区別は現代的議論でも重要である。
【歴史的展開】
フランス革命が「人民主権」として近代ナショナリズムの出発点。ナポレオン戦争によって征服された諸民族でナショナリズムが覚醒し、19世紀のイタリア統一(リソルジメント)・ドイツ統一・バルカン諸民族の独立運動として展開した。20世紀前半はナショナリズムが全体主義と結合した暗い時代。第二次大戦後は脱植民地化運動として民族自決が重要な政治的価値となった。
【現代社会との接点】
EU統合の進展とポピュリズム的ナショナリズムの反発(ブレグジット、各国の移民排斥運動)は、グローバル化への反動としてのナショナリズムの現代的形態を示す。日本では靖国問題・歴史教科書問題がナショナリズム的争点として反復的に浮上する。
【さらに学ぶために】
アンダーソン『想像の共同体』(白石隆・白石さや訳、書籍工房早山)はナショナリズム研究の必読書。ゲルナー『民族とナショナリズム』(加藤節訳、岩波書店)は社会学的分析として重要。スミス『ナショナリズムの生命力』(高柳先男訳、晶文社)はゲルナーへの批判と修正を論じる。
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