「万人の万人に対する闘争」
ホッブズ近代
ホッブズが『市民論』や『リヴァイアサン』で、共通の権力がない自然状態の人間を描いた言葉。
この言葉について
さらに深く
【出典】
ホッブズ本人の言葉である。ラテン語の「bellum omnium contra omnes(ベッルム・オムニウム・コントラ・オムネス、万人の万人に対する戦争)」は、『市民論』(初版1642年、改訂版1647年)の序文に出てくる。彼はそこで、市民社会の外にある人間の状態、つまり自然状態は、万人の万人に対する戦争にほかならないことをまず示すと書いた。1651年の英語の『リヴァイアサン』第13章では、人々を畏怖させておく共通の権力がない間、人間は戦争と呼ばれる状態にあり、その戦争は各人の各人に対する戦争だと書く。同じ章には、そこでの人間の生活は孤独で貧しく、つらく残忍で短い、という有名な一節もある。
【よくある誤解】
この「戦争」は、絶えず殴り合っている状態のことではない。ホッブズは、戦争の本質は実際の戦闘にではなく、それに向かう傾向が知られていて、そうでない保証がない期間全体にあると言い、悪天候がにわか雨の一つ二つではなく、雨模様の日が何日も続くことにあるのと同じだとたとえた。また彼は、人類の歴史のある時期に世界中がそうだったと主張したのでもない。こうした時代や状態は一度もなかったと思う人もいるだろうし、世界中で一般にそうだったことはないと自分も信じる、と書いている。この状態では正と不正の観念も成り立たず、共通の権力がない所に法はなく、法がない所に不正はないとされる。
【この言葉のその後】
この自然状態の描き方には、のちに強い反論が出た。ルソーは1755年の『人間不平等起源論』で、人間は善の観念を持たないから本性的に悪いのだとホッブズとともに結論してはならないと書いた。ルソーによれば、ホッブズは、社会が生み出し法を必要にした無数の情念の満足を、自然人の自己保存の配慮に誤って含めてしまった。彼自身の原理から推論するなら、自己保存への配慮が他人の保存を最も妨げない自然状態こそ、平和に最もふさわしいはずだというのである。
この言葉を残した人物
「政治」の名言
「万国の労働者よ、団結せよ」
マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』の結びに置いた、国を越えた労働者の団結を呼びかける言葉。
「すべての動物は平等である。だが一部の動物は他の動物よりもっと平等である」
オーウェルが『動物農場』の結末近くで、平等を掲げた革命の変質を描くために書いた一文。
「存在が意識を規定する」
マルクスが『経済学批判』の序言で、社会的存在が人間の意識を規定すると述べた一文を縮めた言葉。
「目的は手段を正当化する」
『君主論』などに見るマキャヴェッリの思想を要約した言葉として知られ、結果で手段を評価する考えを表す。
「人間は本性上、ポリス的動物である」
アリストテレスが『政治学』で人間の本性を述べた言葉で、「人間は社会的動物である」の形でも知られる。