
レヴィ=ストロース
Claude Levi-Strauss
1908年 — 2009年
構造主義人類学で「未開」と「文明」の二項対立を覆した思想家
この人物について
あらゆる文化の根底に共通の「構造」を見出し、西洋中心主義の文明観を根本から揺るがした構造主義人類学の創始者。
【代表的な思想】
■ 構造主義
神話・親族体系・料理法など一見雑多な文化現象の背後に、人間精神に普遍的な二項対立の構造(自然/文化、生/死、生/調理済みなど)を見出した。
■ 『野生の思考』
「未開人」の思考は「文明人」に劣るのではなく、異なる論理体系を持つ同等に精緻な知的営みであることを示した。ブリコラージュ(手近な素材での即興的創造)の概念を提唱。
■ 『悲しき熱帯』
南米の先住民族との出会いを綴った紀行文学的民族誌。文化の多様性と西洋近代への批判的まなざしを鮮やかに描いた。
【特徴的な点】
サルトルの実存主義(主体の自由と選択)に対して、人間を動かすのは意識的な主体ではなく無意識の構造であると反論した。「構造主義」は人文科学全体を変革する思想運動となった。
【現代との接点】
多文化主義・文化相対主義の理論的基盤を提供した。異文化理解やポストコロニアル研究の前提となる視座を築いた。
さらに深く
【思想の形成】
クロード・レヴィ=ストロースはベルギーのブリュッセルでフランス系ユダヤ人の家庭に生まれた。パリで法学と哲学を修めたが、抽象的なフランス式哲学教育に飽き足らず、具体的な文化の多様性に向かう民族学を選び取った。1935年にサンパウロ大学に赴任し、マト・グロッソのナンビクワラ族、ボロロ族、カドゥヴェオ族の調査を行った。この経験が彼の方法論の原体験となる。第二次世界大戦中はアメリカに亡命し、ニューヨークで言語学者ロマーン・ヤコブソンと出会って構造主義言語学の方法論に決定的な影響を受けた。帰国後、1949年の『親族の基本構造』で構造主義人類学を確立し、1959年にコレージュ・ド・フランス教授に就任した。
【思想的意義】
レヴィ=ストロースの独創は、ソシュールの構造言語学の方法を親族体系・神話・料理・トーテミズムといった文化現象に適用した点にある。個々の具体的要素の意味ではなく、要素間の差異の構造こそが意味を生み出す。親族の基本構造は女性の交換という贈与の体系として解明され、神話は二項対立(生/死、自然/文化、男/女)の変換を通じた思考装置として分析された。『野生の思考』は「未開人」の思考が「文明人」のそれに劣るのではなく、異なる論理で同等に精緻な知的営みであることを論証した。ブリコラージュ(手近な素材による即興的創造)の概念は、計画的エンジニアリングと対をなす知の様式として高く評価された。
【影響と継承】
構造主義は1960年代のフランスでフーコー・ラカン・バルト・アルチュセールら多彩な思想家を束ねる知的潮流となり、実存主義に代わる時代精神を形成した。人類学の内部でも、その普遍主義的な枠組みをめぐりポスト構造主義、解釈人類学、存在論的転回といった応答を引き出し続けている。『悲しき熱帯』(1955年)の文学的な名声は、人類学を狭い専門領域から解放して世界的な読者に届けた。ボアズ、モース、ソシュールを受け継ぎつつ、その総合的な射程において20世紀人文学の巨匠とされる存在である。
【さらに学ぶために】
『悲しき熱帯』は紀行文学としても読める最良の入口である。『野生の思考』で中核的理論に触れ、四部作『神話論理』で壮大な神話分析に挑むのが自然な流れ。渡辺公三《わたなべこうぞう》『レヴィ=ストロース 構造』、出口顯《でぐちあきら》『レヴィ=ストロース』が日本語の入門書として読みやすい。


