フィロソフィーマップ
現代西洋

ジャック・ラカン

Jacques Lacan

1901年1981年

言語と構造で精神分析を刷新した現代思想家

精神分析構造主義言語
ラカン

この人物について

フロイト精神分析を言語学と構造主義の視点から根本的に読み直し、「無意識は言語のように構造化されている」と説いた精神分析家・思想家。

【代表的な思想】

■ 鏡像段階論

生後6〜18ヶ月の幼児が鏡に映った自己像を自分として認識する過程を分析した。自我とは本来的に虚構的な同一化の産物であり、疎外の起源であるとした。エクリ所収の初期論文で定式化されている。

■ 三つの位相と大文字の他者

人間の精神世界を「想像界」(イメージ)、「象徴界」(言語・法・社会秩序)、「現実界」(言語化できないもの)の三位相で捉えた。主体は「大文字の他者」としての象徴的秩序の中で構成され、欲望は他者の欲望だとした。

■ フロイトへの回帰

1953年から約30年に及ぶセミネール(講義録)でフロイトのテクストを精読し直し、生物学的欲動論を言語と構造の理論へと読み替えた。ソシュールの言語学やレヴィ=ストロースの構造主義を統合した独自体系を築いた。

【特徴的な点】

難解な文体と鏡像段階・想像界/象徴界/現実界といった独創的な概念装置で、精神分析を二十世紀後半の現代思想の中心に位置づけた。

【現代との接点】

文学批評、映画理論、フェミニズム、文化研究で概念装置が広く使われ、SNS時代の自己イメージや承認欲求を分析する枠組みとしても注目される。

さらに深く

【思想の形成】

ジャック・ラカンはパリの裕福なカトリック家庭に育ち、医学と精神医学を学んだのち、1930年代にシュルレアリスムの芸術家たちと交流しつつ、妄想性精神病の研究で博士論文を完成させた。この臨床経験と芸術的感性の交錯が、彼独自の思想様式を形作った。1936年のマリエンバート国際精神分析学会で「鏡像段階」の発表を行い、自我を統合的主体ではなく、鏡に映る他者の像に同一化することで成立する虚構として捉え直した。戦後はコジェーヴのヘーゲル講義、ソシュールの言語学、ヤコブソンの構造主義音韻論、レヴィ=ストロースの人類学を吸収し、フロイト精神分析を言語と構造の視座から根底的に読み直していった。

【思想的意義】

ラカンの根本命題は「無意識は言語のように構造化されている」である。夢・失策・症状は隠喩と換喩の言語機制に従って生成され、主体はシニフィアンの連鎖のなかで分裂しつつ姿を現す。人間の精神世界を「想像界」(鏡像的イメージの領域)、「象徴界」(言語・法・社会秩序の領域)、「現実界」(言語化し尽くせない残余の領域)という三つの位相で捉えるボロメオの輪の理論は、精神病理と正常の線引きを流動化させた。欲望は他者の欲望であるという命題、享楽と対象aの理論は、消費社会や資本主義の精神分析にも応用可能な装置を提供した。1953年から死までの毎週のセミネールは、フロイト以後の精神分析を一新する知的出来事であった。

【影響と継承】

ラカンの影響は精神分析の枠を超え、アルチュセールのイデオロギー論、クリステヴァの記号論、ジジェクの政治哲学、フェミニズム批評、映画理論(ゴダール、ラウラ・マルヴィ)にまで及ぶ。権威的な学派運営と国際精神分析協会からの除名は論争を呼び続けたが、現代思想の地形を変えた存在であることは揺るがない。日本では新宮一成《しんぐうかずしげ》、十川幸司《とがわこうじ》、斎藤環《さいとうたまき》らが臨床と理論の両面で受容を進め、対人恐怖やひきこもりといった固有の病理への応用も試みられてきた。

【さらに学ぶために】

入門にはブルース・フィンクラカン派精神分析入門が最も平易である。新宮一成《しんぐうかずしげ》ラカンの精神分析は日本語で読める良書。主著エクリは難解なので、鏡像段階論の章から拾い読みするのが現実的。フロイト夢判断快感原則の彼岸を先に読むと、ラカンの読み直しの射程が掴みやすい。

主な思想

近い哲学者

影響を受けた人物

影響を与えた人物

関連する著作

著作エクリ

無意識は言語のように構造化されていると説いた精神分析の革新

著作ラカン派精神分析入門:理論と技法ブルース・フィンク(中西之信・椿田貴史・舟木徹男・信友建志訳)

米国を代表するラカン派臨床家による包括的入門

関連する哲学者と話してみる

この人物をマップで見るこの人物とチャットするWikipediaで見る