
柄谷行人
からたに こうじん(Karatani Kojin)
1941年 — 存命
『トランスクリティーク』と「交換様式論」で知られる国際的思想家
この人物について
文芸批評から出発し、マルクスとカントを横断する独自の批判哲学を構築した日本を代表する思想家。バーグルエン賞受賞で国際的知名度も高い。
【代表的な思想】
■ トランスクリティーク
カントとマルクスを互いの視点から読み直す「トランスクリティーク(超越論的批判)」の方法論。カントの批判哲学をマルクスの資本論に、マルクスの経済学をカントの倫理学に接続させた。
■ 交換様式論
社会構成体を「生産様式」ではなく「交換様式」から捉え直す理論。互酬(A)・略取と再分配(B)・商品交換(C)・そしてそれらを超えるD(高次の互酬)の四類型を提示した。
■ NAM(New Associationist Movement)
2000年代初頭に地域通貨やくじ引き民主主義を実践する運動体NAMを組織し、理論と実践の統合を試みた。
【特徴的な点】
文学批評・哲学・経済学・政治理論を自在に横断する射程の広さ。日本の近代文学の分析から出発して世界思想の体系的構想に至った。
【現代との接点】
資本主義の根本的代替を「交換様式D」として構想する試みは、脱成長論やコモンズ論と並んで現代の資本主義批判の最前線にある。
さらに深く
【思想の形成】
柄谷行人は兵庫県尼崎市に生まれ、東京大学経済学部を卒業したのち英文学の大学院に進んだ。1969年に夏目漱石論で群像新人文学賞を受賞し、文芸批評家として出発した。1970年代は形式主義的な文芸批評を深めたが、1980年の『日本近代文学の起源』で「内面」「風景」「告白」といった自明の概念が明治二〇年代に制度として成立したことを暴き、日本文学研究に衝撃を与えた。1980年代以降は『探究』シリーズでヴィトゲンシュタイン、クリプキ、マルクスを横断しながら他者と共同体の問いを深めた。2001年にはNAM(New Associationist Movement)を設立して理論を実践に移したが、2003年に解散。2000年代以降は哲学者としての位置を確立し、2022年にバーグルエン哲学・文化賞を受賞した。
【思想的意義】
柄谷の最大の独創は『トランスクリティーク』という方法にある。カントをマルクスから、マルクスをカントから読み直すことで、両者の限界を互いに超え出させる。マルクスの『資本論』にカントの他者倫理(他者を手段としてのみ扱ってはならない)を読み込み、カントの道徳哲学にマルクスの経済分析を接続する。『世界史の構造』では、社会構成体をマルクスの「生産様式」ではなく「交換様式」から捉え直した。互酬(A)、略取と再分配(B)、商品交換(C)に加え、それらを高次に止揚する「交換様式D」を構想した。Dとは高次の互酬であり、普遍宗教(初期キリスト教、仏教)に萌芽的に現れたものとされる。資本=ネーション=ステートを超える構想として、現代左派政治哲学に新たな地平を開いた。
【影響と継承】
柄谷の仕事は文芸批評・哲学・経済学・政治理論を横断し、スラヴォイ・ジジェクやフレドリック・ジェイムソンら国際的知識人との対話を通じて世界的に受容されている。ジェイムソンは『トランスクリティーク』への長い序文を寄せ、その国際化を後押しした。国内では浅田彰《あさだあきら》・蓮實重彦《はすみしげひこ》・東浩紀《あずまひろき》ら後続世代の批評家に決定的な影響を与え、「批評空間」誌を通じて戦後思想史の一潮流を形成した。交換様式D論は『力と交換様式』(2022年)でさらに展開され、気候危機下のポスト資本主義構想の参照点として注目されている。
【さらに学ぶために】
『トランスクリティーク カントとマルクス』が柄谷思想への最良の入口。『世界史の構造』は交換様式論の体系的展開。『日本近代文学の起源』は文芸批評としての画期的出発点である。入門には小林敏明《こばやしとしあき》『柄谷行人論』も参考になる。



