『資本論』
しほんろん
マルクス·近代
資本主義のメカニズムを解明した経済学の記念碑
この著作について
亡命地ロンドンで大英博物館に通い詰めたマルクスが1867年に第1巻を公刊した、社会科学史上もっとも影響力のある著作の一つ。
【内容】
出発点は日常的な「商品」の分析である。商品に潜む使用価値と交換価値の二重性から、労働がすべての価値の源泉であるとする労働価値説が展開される。そして資本家は労働者が一日の賃金以上に生み出した「剰余価値」を取り込む、という搾取の構造が解明される。資本の蓄積が必然的に労働者の貧困化と恐慌を生み、資本主義は自らを破綻させる、という歴史的運動の論理が示される。第1巻はマルクス生前に刊行され、第2・3巻はエンゲルスが遺稿を編集した。
【影響と意義】
社会主義運動の理論的基盤となり、20世紀の世界政治を根底から規定した。ソ連型社会主義の崩壊後も、資本主義批判の分析枠組みとして生き続け、グローバル化・格差・プラットフォーム経済など今日の問題を考える際に何度も参照され直している。
【なぜ今読むか】
冒頭の商品論は難解だが、工場や児童労働の実態を描いた歴史的叙述は臨場感に満ちる。ピケティ『21世紀の資本』と読み比べると、150年を越えて変わらぬ論点と変わった論点が浮かび上がる。
さらに深く
【内容のあらまし】
第1巻の冒頭は商品の分析から始まる。リネン20メートルが上着1着と交換されるとき、両者には何か共通のものがあるはずだ。マルクスはそれを抽象的人間労働に求める。商品は使用価値と交換価値の二重性を持ち、市場ではあたかも物どうしが関係しているように見える。だが実際には人間と人間の社会的関係がそこに反映されている。この錯覚を彼は「商品物神性」と呼ぶ。
貨幣論を経て議論は資本家と労働者の関係に進む。資本家が市場で買う特殊な商品が労働力である。労働力の価値は、それを再生産するために必要な生活資料の価値で決まる。だが労働者は買われた価値以上の価値を生産する能力を持つ。一日6時間の労働で生活費分を稼ぎ出した後も、契約上は10時間働かねばならない。差額の4時間ぶんの価値が剰余価値として資本家のものになる。これが搾取の数式である。
剰余価値を増やす二つの方法、すなわち労働日延長による絶対的剰余価値と、生産性向上による相対的剰余価値が分析される。19世紀英国の工場法をめぐる長大な歴史叙述は、児童労働や女性労働の凄惨な実態を生々しく伝え、本書をたんなる理論書から告発の書に変える。
後半では資本蓄積の運動法則が描かれる。競争に駆り立てられた資本家は機械化と大規模化を進め、相対的過剰人口すなわち産業予備軍を生み出す。蓄積が進むほど一極に富が集中し、もう一極に貧困と失業が積もる。最後に「いわゆる本源的蓄積」の章で、囲い込みや植民地収奪の血まみれの歴史が描かれ、資本主義は牧歌的に生まれたのではないことが示される。第2巻は資本の流通過程、第3巻は利潤・利子・地代への剰余価値の分裂を、エンゲルスの編集で論じる。