アナーキズム
国家や強制的権力を否定し、自発的秩序を目指す思想
この思想とは
あらゆる強制的権力・支配構造を否定し、個人の自由と自発的協力に基づく社会を目指す思想。
【生まれた背景】
19世紀ヨーロッパで、国家権力と資本主義の双方を批判する運動として発展。プルードンが「財産は盗みだ」と宣言し、バクーニンがマルクスの国家主義と対立した。
【主張の内容】
国家・教会・資本など制度化された権力は人間の自由と創造性を抑圧するとして、その廃止を主張する。プルードンは相互扶助的な連合主義を構想し、バクーニンは集産主義的アナーキズムを展開した。クロポトキンは『相互扶助論』で進化論の競争原理に対抗し、協力こそが種の繁栄の鍵であると論じた。個人主義的アナーキズム(シュティルナー)からアナルコ・サンディカリズム(労働組合による直接行動)まで多様な潮流がある。チョムスキーは現代のリバタリアン・ソーシャリズムとしてアナーキズムを擁護する。
【日常での例】
「上からの命令ではなく、皆で話し合って自主的に決めよう」という態度はアナーキズム的。
【批判と限界】
大規模社会での実現可能性の疑問、安全保障の問題、フリーライダー問題が指摘される。
さらに深く
【思想の深層】
アナーキズムの哲学的核心は「支配それ自体の道徳的正当性を問う」ことにある。国家は法と警察・軍隊によって強制を行使するが、なぜ国家のその強制は正当なのか? 通常の答えは「市民の合意(社会契約)」だが、アナーキストはこの合意が実際には虚偽であることを指摘する。私たちは国家に生まれた時から服従を「強制」されており、真に自由な合意などない。したがって強制的権力を正当化する論理はない。プルードンは「財産は盗みだ」(初めて「アナーキスト」を自称した)と宣言したが、これは私有財産一般の否定ではなく、「何も生産せずに他者の労働から収益を得る」という意味での財産(地代・利潤)の批判である。クロポトキンは『相互扶助論』でダーウィンの「適者生存」解釈に反論し、自然界でも種内の協力が繁栄の主要因であると論じ、アナーキズムを進化論的に基礎づけた。
【歴史的展開】
ゴドウィン(『政治的正義』1793年)が哲学的アナーキズムの先駆。プルードン(1840年代)・バクーニン(マルクスとの国際労働者協会での対立)・クロポトキン(相互扶助・共産主義的アナーキズム)がアナーキズムの三大思想家。スペイン内戦(1936〜39年)ではアナーキズムが最大の民衆的支持を集めたが敗北した。20世紀後半のチョムスキーはリバタリアン・ソーシャリズムとしてアナーキズムを継承した。
【現代社会との接点】
オキュパイ運動・水平的な意思決定・去中心化されたネットワーク組織の実験はアナーキズムの実践的影響を示す。ブロックチェーン・DAO(分散型自律組織)の思想的背景にはアナーキズム的な「中央権力なしの秩序」への理想がある。
【さらに学ぶために】
クロポトキン『相互扶助論』(大杉栄訳、同時代社)は読みやすいアナーキズムの古典。プルードン『所有とは何か』(長谷川進訳、せりか書房)は論争的で力強い原典。チョムスキー『アナーキズム』(大塚勉訳、南風社)は現代的なアナーキズム擁護として有益。

