「大器晩成」
老子古代
老子が『老子』第41章で、道の逆説的な在り方を並べる中に記した、大きな器は遅れて成るという句。
この言葉について
さらに深く
【出典】
『老子』第41章の一句で、『老子』の本文にある言葉である。この章は、すぐれた人は道を聞くと努めて行い、中くらいの人は半信半疑で、劣った人は大笑いする、笑われないようでは道とするに足りない、と始まる。続いて、明らかな道は暗いように見え、進む道は退くように見える、といった逆説を並べ、大きな四角には角が無く、大きな器は遅れて成り、大きな音はかすかで、大きな象には形が無い、と言い、道は隠れて名が無い、と続ける。大器晩成は、常識の反対を言う句の列の一つとして置かれている。
【よくある誤解】
この句は、大きな成就には長い鍛錬が要るという意味に広く理解されてきた。しかし第41章の周りの句は、角が無い、声がかすか、形が無い、名が無い、と大きなものが普通の在り方を欠くことを言っている。この食い違いは昔から気づかれており、清の初めの呂種玉は、もとの本文は「大器無成」だと述べていた。出土した写本でも字が違い、1973年出土の帛書本は「大器免成」、1993年に出た郭店楚簡本は「大器曼成」、2012年に公表された北京大学蔵の漢簡本は「大器勉成」と書く。これらをもとに、郭店楚簡本の「大器曼成」がもとの形で、その意味は「大器無成」と同じだと論じる中国の研究もある。この句は人の出世の早い遅いではなく、道の在り方を語る逆説の列の中にある。
【この言葉のその後】
人について晩成を言う使い方は、中国の歴史書に見える。後漢の時代を記した歴史書の馬援の伝では、詩の学問を学んだものの章句の細かな解釈に縛られるのを嫌い、辺境で田畑と牧畜をしたいと言い出した弟の馬援に、兄の馬況が、お前は大きな才能の持ち主だから遅れて成るはずだ、腕のよい職人は荒削りの材を人に見せないものだ、と言う。三国時代を記した歴史書の、魏の部にある崔琰の伝では、崔琰が、若いころ名声がなく親族からも軽んじられていた従弟の崔林について、これはいわゆる大器晩成というものだ、最後には必ず遠くまで至るだろう、と言い続けた。ここで『老子』の句は、いずれ大成する人物をほめる言葉として使われており、今日の遅咲きの意味に近い。
この言葉を残した人物
老子のほかの名言
「人生」の名言
「他者は地獄だ」
サルトルの戯曲『出口なし』で、死後の密室に閉じ込められた登場人物が口にする台詞。
「天上天下唯我独尊」
ブッダが生まれてすぐ七歩歩いて唱えたと伝わる、自らを世界の最上の者とする宣言の言葉。
「諸行無常」
ブッダの教えとして経典に伝わる、形づくられたものはすべて移り変わるという仏教の基本の句。
「一切皆苦」
ブッダの教えを四つの句にまとめた四法印の一句で、作られたものはすべて苦だと説く言葉。
「死を想え」
セネカの死生観を要約した言葉として知られる、自分が死ぬことを忘れるなというラテン語の句。
「シーシュポスは幸福であると想像しなければならない」
カミュが『シーシュポスの神話』の結びで、不条理を見すえて生きる人間を描いた一文。