「万物は流転する」
ヘラクレイトス古代
ヘラクレイトスの思想を後世が要約した句として知られる、世界はたえず変化するという言葉。
この言葉について
さらに深く
【出典】
万物は流転する(ギリシア語でパンタ・レイ)という形の文は、ヘラクレイトスの断片には無い。著作は失われ、後代の引用として伝わる百あまりの断片から知るしかないが、その中にこの句は見当たらず、2024年の文献学的研究も、後世の要約か言い換えだと論じている。最も近い古い証言はプラトン『クラテュロス』402aで、ソクラテスに πάντα χωρεῖ καὶ οὐδὲν μένει(パンタ・コーレイ・カイ・ウーデン・メネイ、すべては去り、何ものもとどまらない)とヘラクレイトスの言葉を紹介させ、同じ川に二度入ることはできない、とも伝える。本人の言葉として確実な川の断片はB12で、同じ川に入る者には次々と別の水が流れてくる、という文である。
【よくある誤解】
すべては移り変わるので同じものなど何もない、という意味に取られやすい。しかし研究者の間には、確かな断片B12が言うのはもっと微妙なことだという読みがある。川は、水がたえず入れ替わることによってこそ同じ川であり続ける。変化と恒常は対立せず、分かちがたく結びついている。人間の体も同じように理解できる。プラトンが伝える二度入れないという強い流転説についても、1967年の研究が、B12の読み違えから生じうることを示した。その読み違えの出どころとしては、ヘラクレイトスの後継者クラテュロスを想定できるという。
【この言葉のその後】
クラテュロスは、同じ川には一度でさえ入れない、と言い足したことで知られる。プラトンはこのクラテュロス経由のヘラクレイトス説を、感覚で捉える世界のモデルとして使い、パルメニデスの説を知性で捉える世界のモデルとして使ったらしい。こうして早くから、ヘラクレイトスは万物の流転、パルメニデスは不動の代表という対の図式ができあがった。アリストテレスもまた彼を、火を究極の原理に置く質料一元論者として扱った。ヘーゲルは哲学史の講義で、ヘラクレイトスにおいて哲学の理念が思弁的な形で現れると評し、私が自分の論理学に取り入れなかったヘラクレイトスの命題は一つもない、とまで述べた。
この言葉を残した人物
「人生」の名言
「運命を愛せ」
ニーチェが『悦ばしき知識』で、必然的なものを美しいと見て愛そうと書いた言葉。
「汝の在るところのものになれ」
ニーチェがピンダロスの詩句を組み替え、『悦ばしき知識』で良心の声として書いた言葉。
「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、歴史は変わっていただろう」
パスカルが『パンセ』で、恋の小さな原因が世界を動かすことを例に、人間の空しさを示した一節。
「神は死んだ」
ニーチェが『悦ばしき知識』で、神への信仰が支えを失った時代の到来を告げた言葉。
「大器晩成」
老子が『老子』第41章で、道の逆説的な在り方を並べる中に記した、大きな器は遅れて成るという句。
「他者は地獄だ」
サルトルの戯曲『出口なし』で、死後の密室に閉じ込められた登場人物が口にする台詞。