第一次世界大戦
だいいちじせかいたいせん
現代
近代文明の楽観主義を崩壊させた未曾有の総力戦
この出来事について
近代的進歩への信頼を根底から揺るがした人類史上初の総力戦。
【何が起きたか】
帝国主義の列強対立、ナショナリズムの激化、同盟体制の硬直化が重なり、1914年にヨーロッパ全域を巻き込む大戦争に発展した。啓蒙以来の理性と進歩への楽観が崩壊し、近代文明そのものへの根本的な懐疑が広がった。
【思想への影響】
ラッセルは反戦運動に身を投じ、戦争の非合理性を告発して投獄された。ウィトゲンシュタインは従軍経験の中で『論理哲学論考』を執筆し、語りえぬものについては沈黙すべしと論じた。ケインズは『平和の経済的帰結』でヴェルサイユ条約の過酷な賠償がさらなる破局を招くと警告した。フロイトは「死の欲動」の概念で人間の破壊衝動を分析した。
【現代とのつながり】
戦争記念日の追悼、国際協調主義、平和教育の重視は大戦の教訓に由来する。反戦の教訓にもかかわらず第二次大戦を防げなかったという歴史は、知識人の反省が政治的実践に結びつくことの困難さを現代にも問いかけている。
さらに深く
【背景の深層】
第一次世界大戦は近代合理性と進歩への信頼を決定的に崩壊させた出来事である。それまでヨーロッパの知識人は19世紀的な進歩史観に立ち、科学技術と民主政治が人類をより良い方向へ導くと信じていた。しかし機関銃・毒ガス・戦車・潜水艦といった新兵器と総力戦という大規模殺戮の現実は、その楽観を根底から覆した。戦時中の検閲と宣伝は「真実」の概念自体を動揺させ、ダダイスムやシュルレアリスムといった前衛芸術は理性的秩序への徹底した不信から生まれた。若い世代の哲学者・芸術家たちは「戦前世界の崩壊」を共通体験として持ち、以後の思想は20世紀的危機意識を出発点とするようになった。
【影響の広がり】
シュペングラー『西洋の没落』は戦中・戦後に書かれ、西洋文明の没落史観を提示した。ハイデガーの実存哲学、ヤスパースの限界状況論、ベンヤミンの経験喪失論、ウィトゲンシュタイン『論考』の沈黙の思想は、すべて戦争体験と直接・間接に結びついている。シュミットの政治神学や例外状態論は、戦後ワイマール期の危機的情勢を背景に形成された。ルカーチやコルシュら西欧マルクス主義も、第二インターナショナルの戦争協力への幻滅を出発点としている。アメリカの実用主義的楽観、レーニン主義的革命論、イタリア・ファシズムやナチズムの急進主義など、20世紀のイデオロギーの出発点は第一次大戦の衝撃にある。ヴェルサイユ体制の歪みが第二次大戦の火種となった点で、戦間期は一つの連続した思想的危機期として捉えるのが現代の標準的理解である。
【さらに学ぶために】
エーリヒ・マリア・レマルク『西部戦線異状なし』は戦争の実感を文学として残した20世紀の証言である。エリック・ホブズボーム『20世紀の歴史』は20世紀を第一次大戦から始まる「短い20世紀」として描いた歴史家の大著である。
関連する哲学者
ラッセル
論理主義と平和運動の分析哲学者
ラッセルは第一次大戦に反対し投獄された
ウィトゲンシュタイン
言語の限界を探究した二つの哲学の巨人
従軍体験が『論理哲学論考』に影響を与えた
ケインズ
マクロ経済学の父、有効需要の理論を確立
『平和の経済的帰結』で戦後処理を批判した
レーニン
ロシア革命を指導した共産主義の実践者
第一次大戦がロシア革命の契機となった
ヴェーバー
社会科学の方法論を確立した「理解社会学」の父
ヴェーバーは戦争と近代国家の関係を分析した