『マルクスのために』
ルイ・アルチュセール·現代
認識論的切断と重層的決定を提示した構造主義マルクス主義の出発点
この著作について
ルイ・アルチュセール(Louis Althusser)が1965年に刊行した論集(原題『Pour Marx』)。一九六〇年代のフランス構造主義マルクス主義を代表する著作で、現代思想におけるマルクス読解を根本から書き換えた記念碑的文書である。
【内容】
本書は一九六〇年代前半に各所に発表された論文を集めたものだが、一貫した読解戦略が全体を貫く。中心命題は、若きマルクスのヘーゲル的・人間主義的著作と、一八四五年以降の成熟期マルクスのあいだに「認識論的切断(coupure épistémologique)」があるというものである。以後のマルクスは、主体・疎外・人間本質といった哲学的ヒューマニズムを離脱し、歴史的唯物論という新しい科学を創始したと論じられる。アルチュセールはまた、社会構造の矛盾を単一の経済的矛盾に還元するのではなく、経済・政治・イデオロギーといった複数の水準の矛盾が相互に浸透して歴史的事件を形成するとし、これを「重層的決定(surdétermination)」と呼ぶ。さらに有名な一文「歴史は主体なき過程である」が、本書を通じて繰り返し主張される。
【影響と意義】
本書は翌年の『資本論を読む』(1965)とあわせ、エティエンヌ・バリバール、ジャック・ランシエール、ピエール・マシュレら構造主義マルクス主義第二世代を形成した。ミシェル・フーコー、ラカン、レヴィ=ストロースと並ぶ六〇年代フランス構造主義の核心的テクストでもある。日本では廣松渉の物象化論や柄谷行人《からたにこうじん》の『マルクスその可能性の中心』にも直接的影響を与えた。
【なぜ今読むか】
ヒューマニズムか反ヒューマニズムかの対立が現代でも繰り返し噴出する中で、その先駆的定式化を確認する古典として読み直す価値がある。