「大切なものは、目に見えない」
サン=テグジュペリの『星の王子さま』で、キツネが王子に別れ際に秘密として教える言葉。
この言葉について
さらに深く
【出典】
フランスの作家で飛行士のサン=テグジュペリが書いた『星の王子さま』第21章で、キツネが王子との別れ際に、自分の秘密として教える言葉である。作者の地の文ではなく、作中の登場人物の台詞だ。キツネはまず、心で見なくてはよく見えないと言い、続けて L'essentiel est invisible pour les yeux(レサンシエル・エ・タンヴィジブル・プール・レ・ズィユー)、「肝心なことは目には見えない」と言う。作者はキツネのこの二つの文を15回ほど書き直してから、最終的な形にした。本は1943年4月、フランスの敗戦後に作者が亡命していたニューヨークで、英語版と仏語版が出た。フランスで出たのは、作者が1944年7月31日に飛行任務中にマルセイユ沖で消息を絶った後のことである。
【よくある誤解】
この言葉を愛や友情一般の格言として切り出すと、第21章で言われている具体的な中身が抜け落ちる。キツネはこの言葉のすぐ後に、君のバラを君にとって大切なものにしたのは、君がそのバラのために費やした時間だと言う。さらに、人間はこの真理を忘れてしまったが、君は忘れてはいけない、君はなつかせたものに対して永遠に責任を負う、と続ける。目に見えないのは神秘的な何かではなく、時間をかけて結んだ関係と、そこから生まれる責任なのである。また、原文の essentiel は本質的な、肝心なという意味の語で、日本語では「肝心なことは、目には見えない」と訳す例もある。「大切なもの」は、第24章の「いちばん大切なもの」(le plus important)に近い言い方である。
【この言葉のその後】
この言葉は作中で一度きりでは終わらない。第24章では、砂漠で水を探して歩く語り手の飛行士が、いま見えているのは表面にすぎない、いちばん大切なものは目に見えない、と口にする。キツネが王子に教えたことが、今度は語り手の言葉として繰り返されるのである。題名にも訳し方の違いがある。英語やイタリア語では原題どおり「小さな王子」にあたる題が多いのに対し、日本では『星の王子さま』という題が定着した。2005年に岩波書店の翻訳権が消えた後には多数の新訳が出たが、その多くもこの題名を踏襲している。
この言葉を残した人物
サン=テグジュペリのほかの名言
「愛」の名言
「仁とは人を愛することである」
『論語』顔淵篇で、弟子の樊遅に仁とは何かと問われた孔子が答えた言葉。
「他者の苦しみへの共苦こそが道徳の基盤である」
ショーペンハウアーが『道徳の基礎について』で、共苦こそ道徳の土台だと説いた主張を短くまとめた言葉。
「他者の顔は「殺すなかれ」と語りかける」
レヴィナスが『全体性と無限』で、他者の顔の最初の言葉は「汝殺すなかれ」だと書いた一節に基づく言葉。
「我と汝」
ブーバーが主著『我と汝』の題に掲げた、世界への二つの関わり方の一方を示す根源語。
「愛は技術である」
フロムが『愛するということ』で、愛は学んで身につける技術だと説いた言葉。
「汝の隣人を愛せよ」
イエスが神への愛に次ぐ第二の戒めとして、旧約聖書レビ記の句を引いて示した言葉。