フィロソフィーマップ

探偵!哲学カワウソ 第三話「真理の迷宮」

一つの行為に矛盾する真理が同時に成立する奇病が、アカデミーを襲う。何を信じてよいか分からず動けなくなった若者たちを案じ、街の長老がカワウソ探偵に解決を頼む。

事務所のドアが、控えめにノックされた。

入ってきたのは、白髪の老人だった。フィロソフィー街の長老格。哲学者ではないが、街の調停役として知られている人物だった。

「カワウソさん、お願いがあります」

老人は深く腰を折った。

「アカデミーの若者たちが、皆自分が何を信じてよいか分からないと、泣いています。何が真理かも、何が善かも、何が美かも。答えが複数同時に正しいようになってしまった」

「真理が、複数同時に存在している」

「アカデミーの講義では、賛成と反対が、両方とも正しいと判定されます。研究は止まりました。若者たちの心が解体されているのです」

「心当たりは」

真理を扱う哲学者たちが、皆怪しい。問答を仕掛けるソクラテス、対話篇を書いたプラトン、方法的懐疑のデカルト経験論ヒューム、帰納法のベーコン。誰かが、自分の方法を過剰に使っている。だが、私たちには、誰なのか分からないのです」

「動機は」

「分かりません。ですが、誰かが街の真理基盤を揺さぶり続けているのは事実です。このままでは、アカデミーが崩壊します」

カワウソはバッジを正した。

「引き受けます」

老人が事務所を出ていった後、カワウソはメモ帳を取り出した。真理を扱う哲学者は、街に何人もいる。だが、いま街中に最も影響力を持っているのは、この5人だ。

容疑者

  1. ソクラテス(問答で真理を解体する)
  2. プラトン(アカデミーの主、対話篇を書いた)
  3. デカルト(方法的懐疑で全てを疑った)
  4. ヒューム(経験論、因果関係を懐疑した)
  5. ベーコン(帰納法、知識を再構築する側)

「順番に、話を聞こう」

カワウソは事務所を出た。アカデミーの方角から、若者の困惑した声が、風に乗って流れてきた。


ソクラテスの広場

ソクラテスはいつもの広場で、若者を問答攻めにしていた。

ソクラテスソクラテス

「君、君、ちょっといいかね。正義とは何だと思う?」

若者は何かを答え、また問い返され、別の若者と入れ替わっていた。

「ソクラテス先生」

「おお、カワウソ君か。ちょうどいい。君は正義とは何だと思う?」

「すみません、今日は別件で」

「皆、別件、別件と言う。今ここを生きている者は少ない」

ソクラテスは肩をすくめた。

「依頼が来ています。アカデミーの若者たちが、何を信じてよいか分からないと泣いていまして」

「結構なことだ」

「結構、ですか」

「絶対の真理を信じている若者は、いつかは痛い目を見る。早めに揺らいだ方が、ずっといい」

ソクラテスは穏やかに笑った。

「アリバイをお聞きしてもよろしいですか」

「広場にいた。朝から、こうやって若者を捕まえて問答している」

「動機はお有りですか」

動機とは、結果から逆算するものかね、それとも意図を探るものかね」

カワウソは答えに詰まった。

「いえ、その……」

「君が答えたい方で答えよう」

ソクラテスはまた若者の方へ向き直った。

「では、君は、とは何だと思う?」

カワウソは、その背中に向けて頭を下げた。

「ご協力、ありがとうございました」

「カワウソ君、最後に一つ。私を疑え。疑うことは、知の始まりだ」

ソクラテス:広場で問答中。アリバイなし。動機問いに「問うのが好き、本性か」と返す。


プラトンのアカデミー

プラトンは、アカデミーの図書室にいた。本棚に囲まれて、何かを書きつけている。

プラトンプラトン

「プラトン先生」

「ああ、カワウソ君。来ると思っていた」

プラトンは羽ペンを置き、机の上の書物の山を示した。何巻もの対話篇が積まれている。

「アカデミーの主として、街の事件は私の責任でもある」

「先生のお名前が、容疑として挙がっています」

私かもしれぬ

プラトンは即答した。カワウソは目を見開いた。

「私は、師であるソクラテスの問答を、書物にした。彼は何も書かない男だから、私が書いた。だが、書物は若者たちの手元に届く。彼らが私の対話篇を読むと、ソクラテスの問答が百人の問答になって彼らに襲いかかる」

「先生ご自身の哲学はどう絡みますか」

「私はイデア論を立てた。真理はイデア界にある。現実の世界は、その影に過ぎない。だから、現実の真理が複数あるように見えても、それはイデアの一面が現れているだけだ。理論的には、矛盾しない

プラトンは深刻な顔だった。

「だが、若者たちは、現実の影しか見ていない。イデア界に登れば、真理は一つだと分かる。だが、登る道を、私はまだ書ききれていない。彼らに必要なのは、イデアへの上昇だ」

カワウソはメモを取った。

「動機は」

「ない。私はただ、書きたいから書いている。書物化が結果として街を揺さぶっているのなら、それは手段の問題であって、意図ではない」

帰り道、カワウソは考えた。プラトン先生は加担を認めた。だが、書物を書くこと自体は罪ではない。書物が問題を起こしているなら、書物を読む側、あるいは書かれた中身そのものに、別の原因があるはずだ。

プラトン:イデア論で真理の複数性を「理論的には矛盾しない」と擁護。対話篇を書いたことで加担の可能性。動機なし、書きたいから書いた。


デカルトの暖炉

デカルトは、自分の家の暖炉の前で、毛布に包まって座っていた。火を見つめ、何かを考えている。室内は静かで、思考だけが満ちている。

デカルトデカルト

「デカルト先生」

「カワウソ君か。座りたまえ」

カワウソは隣の椅子に座った。火が暖かい。デカルトは目を閉じている。

「先生、考え事ですか」

「いつものことだ。私は思考することが仕事だ」

デカルトは目を開けた。

「私は方法的懐疑ほうほうてきかいぎを行った。疑える限り疑い、最後に疑えないものを真理とした。我思う、ゆえに我在り。これだけは、疑い得ない」

「全てを疑った後で、確実な土台に到達する、と」

「そうだ。私の懐疑には到達点がある。土台がなければ、家は建たない。哲学も同じだ」

「街の事件についてはどうお考えですか」

「興味はない」

デカルトは即答した。

「私は、自分の哲学体系を完結させたい。街がどうなろうと、私の理性はここにある」

「先生は、ご自分が犯人ではないと言えますか」

「私は疑うだけだ。揺さぶった後に、確実なものに戻る。揺さぶったまま放置するような無責任なことはしない」

デカルトは火を見つめた。

「私の懐疑は、家を建てるための地ならしだ。地ならしだけして家を建てない者がいたら、それは別の話だ」

カワウソはペンを止めた。地ならしだけして家を建てない者。デカルト先生は誰かを名指しした訳ではない。だが、街には今、土台を失った若者たちがいる。揺さぶりの後に土台が来ないなら、それは確かに無責任だ。

「ありがとうございました」

「カワウソ君、最後に一つ。我思う、ゆえに我在り。君自身の存在は疑い得ない。それを土台にしたまえ」

デカルト:自分の体系に集中、街への関心なし。「揺さぶった後に確実なものに戻らねば無責任」と一般論として語る。


ヒュームの書斎

ヒュームは、海の見える書斎で、椅子に深く腰掛けていた。手にはお茶のカップ。

ヒュームヒューム

「ヒューム先生」

「ようこそ。お茶でも」

「ありがとうございます」

ヒュームはお茶を淹れてくれた。落ち着いた所作。窓越しに、海が見える。

「街の事件、ご存じですよね」

「もちろん」

「失礼を承知でお伺いしますが、先生のご関与は」

ヒュームは少し笑った。

「私は経験論者だ。因果関係も、人間の習慣に過ぎないと論じた。原因と結果は、繰り返し観察されることで、心の中で結びつくだけだ。実在する繋がりではない」

「では、真理が複数あることは」

自然なことだ。経験は人によって違う。一つの真理を全員に押し付ける方が、むしろ不自然だ」

「先生は、街の混乱を肯定されますか」

「肯定するというより、観察結果だ。世界は複数の経験から成る。一つの絶対真理を求める方が、人間の哲学的傲慢だ。今、若者たちはその傲慢から自由になりつつある。良いことかもしれぬ

「彼らは混乱して泣いていますが」

「混乱は、真理が一つだと信じていた者が、それを失った時の反応だ。やがて慣れる」

ヒュームはお茶を一口飲んだ。

「動機は、ない。私は穏やかに、自分の哲学を書く。街の混乱には、関心がない」

「先生は、誰かが街を揺さぶっていると思いますか」

「揺さぶりは、誰の責任でもない。経験そのものが、揺れているのだ」

帰り道、カワウソは違和感を覚えた。ヒューム先生は、街の混乱を自然な経験のばらつきとして片付けた。だが、街では一斉に真理が複数化している。それは「経験が違う」のではなく、何かが意図的に真理を解体している兆候のように思えた。ヒューム先生は、関心がないのか、それとも気づきたくないのか。

ヒューム:経験論的に「真理の複数性は自然なこと」と肯定。動機なし、関心なし。だが街全体の一斉現象を「経験のばらつき」で片付けるのは違和感。


ベーコンの実験室

ベーコンは、街外れの実験室にいた。机の上には、観察記録のノートと、奇妙な装置がいくつも並んでいた。

ベーコンベーコン

「ベーコン先生」

「カワウソ君、来たか。手伝ってくれ。この記録の整理を」

「すみません、調査で来ました」

「ふむ、では手短に」

ベーコンはノートを置いた。

「街の真理混乱、ご存じですか」

「観察している。興味深い現象だ」

「ひとつだけ確認させてください。事件への関与は」

「私ではない」

ベーコンは即答した。

「私は知は力なりを掲げる。知識は積み上げるものだ。観察して、帰納して、構築する。私は実験で忙しい。誰かを揺さぶっている暇はない」

「自分の哲学に専念されているのですね」

「そうだ。私は焼け野原の上で実験する。古い知が一度崩れた焼け野原でこそ、新しい知が生まれる。役割分担だ」

「焼け野原、というのは」

「世界には、揺さぶる者と、再構築する者がいる。揺さぶりが必要なのは認める。だが」

ベーコンはふと顔を上げ、ノートに目を戻したまま、ぽつりと言った。

揺さぶりだけで終わるなら、それは破壊にすぎない

カワウソはペンを止めた。

ベーコンはそれ以上は言わなかった。実験道具を手に取り、何かの計測を始めた。

帰り道、カワウソはベーコン先生の独り言を反芻した。揺さぶりだけで終わるなら破壊。誰が、揺さぶりだけで終わっているのか。デカルト先生も「揺さぶった後の確実な土台」を持っている。プラトン先生は対話篇を書いてを残している。ヒューム先生は静かに自分の哲学を書いている。ベーコン先生自身は実験して再構築している。

揺さぶりだけで終わっているのは、誰だろう

ベーコン:自分の実験に専念。「揺さぶりだけで終わるなら、それは破壊にすぎない」と独り言。


事務所のデスクにて

夕方、カワウソは事務所に戻った。メモ帳を広げる。五人の証言を、訪問順に並べる。

ソクラテス:広場で問答中。アリバイなし。「答えは問われた者が産む」「無知の知」「産婆術」を語る。

プラトン:書物化の加担を認める。だが動機はない、書きたいから書いた。

デカルト:自分の体系に集中、街への関心なし。「揺さぶった後に確実なものに戻らねば無責任」。

ヒューム:経験論的に肯定、関心なし。一斉現象を「経験のばらつき」と片付ける違和感。

ベーコン:自分の実験に専念。「揺さぶりだけで終わるなら、それは破壊」と独り言。

カワウソはペンを止めた。

五人の哲学を並べてみる。プラトン先生は、書物というを残す。デカルト先生は、揺さぶった後に確実な土台に戻ってくる。ヒューム先生は、自分の哲学を穏やかに書いている。ベーコン先生は、焼け野原の上で実験して再構築している。

ベーコン先生の独り言が、頭に響いた。

揺さぶりだけで終わるなら、それは破壊にすぎない。

揺さぶりだけで終わっているのは、誰だろう

カワウソはペンを止めた。

ソクラテス先生だ。問答で答えを解体した後、何も残さない。本人は「答えは問われた者自身が産む」と言う。だが、産むためには素材がいる。土台がいる。先生の問答は、その素材を解体することはできても、産婆することはできていない。

しかも、先生は自分の問答が結果として何を生んでいるか、確認していない。本人は「自分は問うているだけ」と言う。だが、問答は街全体に広がっている。プラトン先生の対話篇を通じて、何百倍にも増幅されて。

カワウソはバッジを正し、もう一度、ソクラテスの広場へ向かった。


再びソクラテスの広場

ソクラテスは、まだ広場にいた。今度は、新しい若者を捕まえて、について問答していた。

「ソクラテス先生」

「おお、戻ってきたか」

「先生、私から問わせてください」

ソクラテスは目を細めた。

ほう

「先生、産婆術とは、何ですか」

「君は、産婆術が何だと思う?」

ソクラテスは即座に問い返した。さすがに油断ならない。

「私の理解では、問われた者の魂から知を産み出す助け、です」

「その通りだ」

産み出す、というのは、何かが生まれることですね」

「そうだ」

「では、産まれない場合、それは産婆術と呼べますか」

急ぐな、カワウソ君」

ソクラテスは穏やかに言った。

「産まれない、と君が判断するのは、何によってか? 産まれた、と判断するのは、何によってか?」

問い返しが返ってくる。カワウソは思考を整える。

「答えが、その人の中に成立すること、ではないでしょうか」

「では、街の若者の中に答えが成立していない、と君はどうやって知った?」

「彼らの言葉が、混乱していました」

「混乱は、答えへの道ではないのか? 無知の知こそ知の始まりだ。混乱は、その始まりかもしれぬ」

ソクラテスはまだ譲らない。始まりだ、と何度も繰り返す。だが、街の若者たちは、いつまでその「始まり」にいるのだろう。

カワウソは深呼吸した。

「先生、産婆は、いつかは赤ん坊が産まれるから産婆と呼ばれます。永遠に陣痛だけが続くなら、それは産婆ではありません」

「ふむ」

ソクラテスは初めて、言葉を止めた。

「街の若者たちは、いつまで陣痛が続くのですか」

「……それは、私の答えるべき問いではない。彼ら自身が答えるべきだ」

「先生、彼らが答えるためには、素材がいるのではありませんか。経験、知識、思考の土台が」

「素材は、問答の中で作られる」

ソクラテスはまだ食らいついてきた。

「では、先生にお聞きします。先生の問答は、若者から何を解体していますか」

「彼らの思い込みだ。素朴な信念、自分の中で固まった答え。それを揺さぶる」

「揺さぶった後、新しい素材は、先生の問答から生まれていますか。それとも、揺さぶられただけで終わっていますか」

ソクラテスは長い間、黙っていた。広場の若者たちの問答する声が、遠くで響いている。

「ベーコン先生は、おっしゃっていました」

カワウソは静かに続けた。

揺さぶりだけで終わるなら、それは破壊だ、と」

「……」

ソクラテスはようやく、深く息を吐いた。

「君は、私の方法で、私を詰めた」

「先生」

産婆できない者を産婆していた。私は、自分の問答の効果を、自分の信念で測っていた。実際の効果ではなく」

ソクラテスは立ち上がった。広場の若者たちが、何事かと振り返る。

「君は、辿り着いた」

ソクラテスは広場の奥へ歩き、布の下から何かを取り出した。素朴な木の杯だった。

「これは、毒杯だ。私が罪を犯したなら、私はそれを飲もう。アテナイの法廷でそうしたように」

「先生、お待ちください」

カワウソは杯を奪い取ろうとした。だが、ソクラテスは杯を口に運び、ぐいっと飲み干した

「先生!」

カワウソは慌てて駆け寄った。だが、ソクラテスは満面の笑みで言った。

ワインだ

「えっ」

毒杯の中身は、ワインだ。演じるのも哲学だ。演技を通して、真理を伝える

ソクラテスは大笑いした。広場の若者たちも、釣られて笑った。

「君は、演じられることに気づかぬのが、唯一の弱点だな」

カワウソは脱力した。

「先生、本当に……」

「演じることは、ひとつの問答だ。私は死を演じて、君に真理は一つでないことを示した。私の問答は破壊だった、という君の論理は正しい。だが、その論理を認めながら、私はまだ演じることができる。矛盾の中の真理だ」

ソクラテスはワインを差し出した。

「君も飲むか」

「結構です」


依頼完了

ソクラテスは杯を置き、座り直した。広場の若者たちは、いつの間にか、自分たちで問答を始めていた。今度は、ソクラテスではなく、自分たち同士で。

「カワウソ君、君に反問の槍を授けよう」

「先生」

相手の主張を、その主張自身の問いで突き返す技だ。私の問答法の核だ。これからの調査に役立てたまえ」

カワウソは深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「私を破った者には、私の理論を渡す。問答だからな」

ソクラテスは静かに笑った。

「ところでカワウソ君、君は今回の事件を通じて、何を学んだ」

「問答法の構造、ですね」

「正確には」

問答は答えを産み出す産婆術である。しかし、産み出すための素材が問われた者にないと、ただの解体になる。問答は、相手の知の土台を尊重する中でしか機能しない

「素晴らしい」

ソクラテスは満足げに頷いた。

「君は、ソクラテス主義者になりつつある」

「探偵です」

「同じことだ」

ふと、ソクラテスはカワウソを見た。

「カワウソ君、最後に一つ問おう。私の問答は、なぜ最近、密度が増したのだろうな

「と、おっしゃると」

「私自身、書物をいくつか読んだ。自分の対話篇が街中に出回っている、と知った。読み返してみると、奇妙な抜き刷りがいくつか挟まっていた。私の言葉ではない注釈が」

ソクラテスはそれ以上は言わなかった。ただ、ワインを一口飲んだ。


エピローグ

その夜、カワウソは事務所のデスクで、メモ帳をめくっていた。

仲間:3人(ヘーゲルサルトル、ソクラテス) 学んだ思想:弁証法実存主義、問答法 街角の噂:街の時計が一斉に止まり散歩の時間が分からなくなった哲学者がいる、という

ふと、メモ帳の最後のページに、また自分でも書いた覚えのない文字があった。

ソクラテスもまた、自分の問答の効果を、誰かに増幅されていたのかもしれない。 街には、彼の対話篇が書物として出回っている。 書物には、抜き刷りの注釈が挟まっていた、と聞く。

カワウソはメモ帳を閉じた。

窓の外、月が街を照らしている。アカデミーの若者たちが、ソクラテスの問答に再び挑んでいた。今度は、答えを産み出す側として。彼らの目には、迷いではなく、考える力が宿っていた。

そして、街の片隅、ある工房の窓越しに、煙草の煙がゆっくりと立ち上っていた。誰かが、夜更けに書物を印刷している。

カワウソは小さく息を吐いた。明日もまた、フィロソフィー街は、にぎやかな一日になりそうだった。

(第三話 了)

登場した哲学者