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功利主義

最大多数の最大幸福を追求する思想

倫理学幸福帰結主義

この思想とは

行為の善悪をその結果がもたらす幸福の総量で判断する倫理学。

【生まれた背景】

18世紀末の英国で、非合理的な法制度や慣習への改革を求める中、ベンサムが「最大多数の最大幸福」の原理を提唱した。産業革命期の社会問題への実践的応答でもあった。

【主張の内容】

行為の道徳的価値は、それが生み出す快楽と苦痛の総量で計算される。ベンサムは快楽計算(強度・持続・確実性など七基準)を構想した。ミルはこれを修正し、快楽には質的な差異があると論じた。すべての人の幸福を平等に考慮する点で民主的であり、政策の費用便益分析や医療における QALYなど現代の意思決定にも深く浸透している。

【日常での例】

「皆が一番幸せになる選択肢を選ぼう」と考えるとき、無意識に功利主義的な判断をしている。

【批判と限界】

少数者の権利を多数の幸福のために犠牲にしうる点、幸福を数値化する困難さが批判される。ロールズは正義の観点から反論した。

さらに深く

【思想の深層】

功利主義の核心は「幸福の最大化」という一見単純な原理だが、その内実は複雑である。ベンサムは快楽計算の7基準(強度・持続・確実性・近接性・多産性・純粋性・射程)を考案したが、ミルはこれを修正し、快楽には質的差異があると論じた。「満足した豚よりも不満足なソクラテスの方が良い」という言葉がそれを示す。ミル以後、G・E・ムーアは「理想的功利主義」として快楽以外の価値(知識・友情・美)も本来的な善だと主張した。現代の功利主義は「選好功利主義(preference utilitarianism)」が主流であり、実際の快楽や苦痛ではなく、人々の選好(preference)の充足を最大化することを目標とする。また、個々の行為を評価する「行為功利主義」と、従うべき規則を功利的に決める「規則功利主義」の区分も重要である。

【歴史的展開】

ベンサムは功利主義を個人倫理にとどめず、法制度改革の根拠として用いた。パノプティコン(一望監視施設)の設計も、犯罪抑止の効率化という功利主義的発想から生まれた。ミルは女性参政権や自由主義との統合を試みた。20世紀にはヘア、スマート、シンガーら分析哲学者が功利主義を精緻化した。ピーター・シンガーは選好功利主義を動物にも拡張し、動物の苦痛も道徳的配慮の対象とすべきだと論じた(『動物の解放』1975年)。これは動物倫理・ヴィーガニズムに大きな影響を与えた。

【現代社会との接点】

費用便益分析(CBA)は政策決定の標準的手法であり、功利主義の直接的な応用である。医療における「QALY(質調整生存年)」は治療の価値を生命の質と量の積として計算し、限られた医療資源の配分に用いられる。「効果的利他主義(EA)」運動は功利主義の論理を寄付・慈善活動に徹底適用し、最大の善を実現する行動を選ぶよう主張する。ただし、功利計算が「少数の犠牲で多数を救う」ことを肯定しうるという批判(臓器移植の思考実験など)は今も議論が続く。

【さらに学ぶために】

ミルの『功利主義』(伊原吉之助訳ほか)は薄いが議論が凝縮されており、功利主義の古典的テキストとして最適。シンガー『実践の倫理』(山内友三郎ほか訳、昭和堂)は選好功利主義の現代的応用を幅広く論じた必読書。サンデル『これからの「正義」の話をしよう』は義務論・徳倫理との比較をしながら功利主義の限界を論じている。

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