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中世日本

空海

くうかい(Kukai)

774年835年

真言密教を開いた日本仏教の巨人

密教即身成仏真言宗
空海

この人物について

真言密教を日本に伝え体系化した平安時代の巨人。書・教育・土木にも秀で、日本文化そのものに計り知れない影響を与えた「弘法大師」。

【代表的な思想】

■ 即身成仏《そくしんじょうぶつ》

何度も生まれ変わらなくても、この身このままの現世で悟りを開くことが可能であるとした。密教独自の身体的修行(身密《しんみつ》・口密《くみつ》・意密《いみつ》の三密《さんみつ》)によって、宇宙の根源である大日如来《だいにちにょらい》と一体化できるとする教え。

■ 十住心論

人間の精神的発達を十段階に分類し、動物的な欲望の段階から儒教・道教・小乗仏教・大乗仏教を経て、真言密教を最高位に位置づけた。諸思想を包括的に体系化した壮大な比較思想論。

■ 声字実相義

言葉や文字は単なる記号ではなく、宇宙の真理(大日如来の活動)そのものの表れであるとした。言語と実在の一体性を論じた独自の言語哲学。

【特徴的な点】

道元が坐禅の一行に徹したのに対し、空海は密教の多様な修行法と壮大な宇宙論を統合した。三筆の一人として書道に秀で、綜芸種智院《しゅげいしゅちいん》を創設して庶民教育にも尽力するなど、多方面で活躍した行動的知識人であった。

【現代との接点】

身体性を重視する修行論はマインドフルネスや身体知の議論と接点を持つ。自然と人間の一体性を説く思想は、環境倫理の文脈でも再読されている。

さらに深く

【思想の形成】

空海は774年、讃岐国《さぬきのくに》(現在の香川県善通寺市)に生まれた。母方の親族のもとで漢籍を学び、18歳で平安京の大学で官吏養成の学問に取り組むが、仏教に強く惹かれて中退し、四国の山野で虚空蔵求聞持法《こくうぞうぐもんじほう》などの修行に没頭した。24歳の著作三教指帰では儒教・道教・仏教を戯曲形式で比較し、仏教への帰依を宣言した青年期の思想的決算を示している。804年、遣唐使として唐に渡り、長安の青龍寺《せいりゅうじ》で恵果阿闍梨《けいかあじゃり》から密教の正統な法を短期間のうちに全て伝授され、異例の後継者に選ばれた。806年に帰国し、嵯峨天皇の庇護のもと、高野山に金剛峯寺《こんごうぶじ》を開き、都の東寺(教王護国寺《きょうおうごこくじ》)を拠点として真言密教の教学と実践を確立した。835年に高野山で入定《にゅうじょう》した。

【思想的意義】

教学の核心は「即身成仏」の思想である。顕教が長い修行の末の成仏を説くのに対し、密教では大日如来と修行者が身・口・意の三密を通じて一体化することで、この身このままで悟りに至ることができるとされた。手に印を結ぶ身密、真言を唱える口密、仏を観想する意密の三つの修行を同時に行うことで、宇宙そのものである大日如来の智慧に参入する。主著十住心論では、世俗の欲望に埋没した段階から儒教・道教・小乗・大乗諸宗を経て真言密教に至る精神の発達を十段階に体系化した。言語哲学的にも独創的で、声字実相義では音声・文字・意味そのものが実在の表れであるとし、マンダラは視覚的形象を通じて真理を開示する装置として位置づけられる。

【影響と継承】

空海が開いた真言宗は日本仏教の主要な一派となり、平安仏教の基調をなした。嵯峨天皇・橘逸勢《たちばなのはやなり》と並ぶ三筆の一人として書の名手でもあり、漢詩文・語学・工学・社会事業にも通じた万能の文化人として後世に「弘法大師」の尊称のもと広く慕われた。満濃池《まんのういけ》の修築や綜芸種智院の設立は、宗教を超えて社会事業と庶民教育の先駆的な試みとして評価される。現代では西田幾多郎《にしだきたろう》や鈴木大拙《すずきだいせつ》、井筒俊彦《いづつとしひこ》らが密教の言語哲学と存在論に深い関心を寄せ、マンダラ思想は比較宗教学や深層心理学、現代美術の領域にも影響を及ぼし続けている。

【さらに学ぶために】

三教指帰は青年期の思想を鮮やかに示し、入門として読みやすい。十住心論は専門的だが、竹内信夫《たけうちのぶお》空海入門(ちくま新書)と松長有慶《まつながゆうけい》『空海』が平明な案内となる。高野山を実地に訪ねることも、その思想世界を体感する方法である。

主な思想

近い哲学者

影響を受けた人物

影響を与えた人物

関連する問い

関連する著作

著作三教指帰

儒・道・仏三教を比較し仏教の優位を説いた空海24歳の出世作

著作秘密曼荼羅十住心論

空海が密教の体系を十段階の心で論じた主著

著作声字実相義

音声・文字・意味そのものが大日如来の現れと説く言語哲学書。

著作空海《くうかい》入門:弘仁のモダニスト竹内信夫

現地調査と精緻な著作解釈に基づく空海の入門書。

著作空海《くうかい》松長有慶

高野山真言宗管長による多角的な空海評伝。

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