『社会契約論』
しゃかい けいやくろん
ルソー·近代
人民主権と一般意志を説いた民主主義思想の古典
この著作について
ジュネーヴ生まれのジャン=ジャック・ルソーが18世紀半ばに公刊した、近代民主主義思想の最重要古典の一つ。
【内容】
全4編の簡潔な政治哲学書。冒頭の「人間は自由なものとして生まれたが、いたるところで鎖に縛られている」という一句が、全編を貫く問題提起となる。個人の自由を失わずに政治共同体を成り立たせる道として提示されるのが社会契約であり、各人が自己の諸権利を共同体全体に譲渡することで、「一般意志」に服従する=自分自身に服従するという逆説的な構造が導かれる。第2編は主権と立法、第3編は政体論(民主政・貴族政・君主政)、第4編はローマ共和政の制度分析と「市民宗教」論で締めくくられる。
【影響と意義】
ホッブズやロックの社会契約論を、人民主権の徹底という方向に押し進めた書物である。フランス革命の思想的母体となり、ロベスピエールが直接引用した。カント、フィヒテ、ヘーゲルからロールズ、ハーバーマスに至る共和主義・討議民主主義の系譜に連なる共通の参照点でもある。
【なぜ今読むか】
「みんなの賛成」と「一般意志」は違う、というルソーの区別は、多数決で決めれば民主主義だ、という俗説を根底から問い直す思想的武器を与えてくれる。ポピュリズム論のいまだからこそ読み直したい一冊。
さらに深く
【内容のあらまし】
第1編は「人間は自由なものとして生まれたが、いたるところで鎖に縛られている」という問題提起で始まる。ルソーは強者の権利を退け、奴隷契約を無効と論じたうえで、自由を失わずに共同生活を営む唯一の道として社会契約を提示する。各人が自分のすべての権利を共同体全体に譲渡することで、誰にも従属せず、しかし全体に従う逆説的な状態が生まれる。譲渡の受け手は人民全体であり、ここに「主権者」が誕生する。
第2編で主権の性質が分析される。主権は譲渡できず分割できず誤りえない、と強い言葉で規定される。鍵は「一般意志」と「全体意志」の区別である。全体意志は私的利益の足し算にすぎないが、一般意志は共通善を志向する意志であり、両者はしばしば食い違う。多数決でいくら決めても、それが一般意志に達しているとは限らないという厳しい主張だ。さらに法を起草する立法者という独特の存在が論じられ、モーセやリュクルゴスが範として引かれる。
第3編は政体論にあてられる。民主政・貴族政・君主政の長短が、人口や風土とともに比較される。ルソーの立場は、立法は人民全体が行い、執行は政府に委ねるという機能の区別である。政府は主権者の僕であり、いつでも改廃できると念を押される。代議制への有名な批判もここに置かれ、英国人は選挙の瞬間だけ自由で、その後は奴隷に戻る、と皮肉られる。
第4編はローマ共和政の制度分析を経て、結語的に「市民宗教」が提案される。神の存在、来世、社会契約の神聖さといった少数の教義を市民の共通信条とし、宗教的不寛容のみを罰する、というのがその骨格である。政治と信仰の関係を問い直す独特の章で全編が閉じられる。