これから社会の決まりを作ります。ただし、自分がその社会でどの立場に生まれるかは、決めたあとまで分かりません。 恵まれた家かもしれませんし、まったく逆かもしれません。
まずは選んでみてください。
まず、選んでみる
これから社会の決まりを作ります。ただし、自分がその社会でどの立場に生まれるかは、決めたあとまで分かりません。恵まれた家かもしれませんし、まったく逆かもしれません。
どういう決まりにしますか。
正解はありません。選ぶと、その答えがどの前提に乗っているかが出ます。
この問いを作った人
ジョン・ロールズが1971年に出した仕掛けです。原初状態と呼ばれます。
狙いは単純です。人は自分の立場が分かっていると、自分に有利な決まりを選びます。 健康な人は医療費の自己負担を高くしたがり、資産のある人は相続税を嫌がる。
そこで、自分の性別も、才能も、生まれる家も、健康状態も、全部隠す。このヴェールをかぶった状態で選ばれた決まりなら、それは公平だと言えるはずだ。
思考実験を、公平さを判定する装置として使っています。
4つの答えは、それぞれ別の哲学に立っている
弱い側に寄せる。いちばん恵まれない立場の人が、それでも暮らせる線を先に決める。ロールズ自身の答えです。どこに生まれるか分からないなら、最悪の場合を最も良くする選び方が合理的になる。
全体を大きくする。全体の豊かさがいちばん大きくなる決まりにする。ベンサム以来の功利主義です。確率で考えれば、期待値の高いほうを選ぶのが合理的だという反論になります。
決め方をそろえる。誰にとっても同じ規則が当てはまる形にする。カントに近い発想で、中身より形式の普遍性を先に置きます。
決めない。どの立場になるか分からない以上、決めようがない。ヴェールが厚すぎるという批判で、実際これはロールズへの有力な反論の一つです。
ノージックの反論
ロバート・ノージックは、この装置そのものを疑いました。
彼の論点はこうです。分配の正しさは、結果の形では決まらない。 どんな分配になっているかではなく、そこに至る過程が正当だったかで決まる。
自由な取引を重ねた結果として格差が生まれたなら、その格差は正当です。それを是正するには、誰かから取り上げなければならない。 ノージックはそこに強く反対しました。
ロールズとノージックの対立は、いまも政治哲学の主要な軸として残っています。
この装置は、いまでも使えます
無知のヴェールの良いところは、自分で試せることです。
会社の人事制度を決めるとき、自分がどの部署のどの等級になるか分からないとしたら、同じ制度を選ぶか。学校の校則を、自分がどの生徒になるか分からない状態で決めたら、いまと同じものになるか。
答えが変わるなら、いまの制度は誰かの立場から作られています。
いま、この問いが出てくる場所
世代間の負担、医療資源の配分、税制。どれも、決める人が自分の立場を知っている状態で決められています。
ヴェールを完全にかけることはできません。ですが、もし自分が反対側だったらと一度考えるだけで、見え方は変わります。それがロールズの残した実用的な部分です。