
ピーター・シンガー
Peter Singer
1946年 — 存命
動物解放と実践倫理学の功利主義者
この人物について
動物の権利と地球規模の貧困問題に哲学的メスを入れ、倫理学を「実践」の領域に引き戻した現代功利主義の代表者。
【代表的な思想】
■ 動物の解放と種差別批判
『動物の解放』で、人種差別や性差別と同様に、種の違いのみを理由として動物の利益を無視する「種差別(スピーシズム)」は道徳的に不当であると論じた。苦痛を感じる能力を持つすべての存在の利益を平等に考慮すべきだとした。
■ 効果的利他主義
豊かな国の市民は、世界の貧しい人々の生命を救うために寄付する道徳的義務があると主張した。溺れている子どもを見捨てないのと同様に、援助可能な苦しみを放置することは道徳的に問題であるとした。
■ 選好功利主義
古典的功利主義の快楽・苦痛ではなく、個々の存在の「選好(preference)」の充足を道徳判断の基準とする立場を展開した。
【特徴的な点】
カントやロールズの義務論的伝統に対し、帰結主義(功利主義)の立場を一貫して擁護する。安楽死や胎児の道徳的地位をめぐる議論では強い反発を受けるが、論争を通じて実践倫理学の発展に貢献した。
【現代との接点】
ヴィーガニズム運動や効果的利他主義運動の哲学的基盤を提供し、動物福祉法の改革や国際的な貧困対策の議論に直接的な影響を与え続けている。
さらに深く
【思想の形成】
ピーター・シンガー(1946〜)は、オーストラリアのメルボルンにホロコーストを逃れたオーストリア系ユダヤ人の家に生まれた。祖父母をナチスの収容所で失った家族史は、制度化された残虐に対する感度の原点となった。メルボルン大学、オックスフォード大学で学び、ヘアの選好功利主義に強く影響を受けた。プリンストン大学で生命倫理を講じ、ベンサムとミルの古典的功利主義を現代の問題領域に接続した。痛みや快を感じる能力を持つ全ての存在の利益を平等に考慮すべきだとする「利益の平等な配慮の原則」が、動物倫理から地球規模の貧困、生殖医療、安楽死に至る論争への共通の足場となった。
【思想的意義】
『動物の解放』は、種の違いのみを理由に動物の利益を軽視する種差別を人種差別や性差別と同型の不正として告発し、動物解放運動の理論的支柱となった。論文「飢えと豊かさと道徳」は、目の前で溺れる子どもを救う義務があるなら、遠くで救える貧困を放置する怠慢も同質の不正だと論じ、のちの効果的利他主義運動の出発点となった。『実践の倫理学』では、胎児の道徳的地位、重度障害新生児の扱い、世代間倫理、環境への義務を体系的に扱い、直観に挑戦する帰結主義的推論の徹底性を示した。倫理を職業哲学者の専門語ではなく、寄付、食事、投票の選択に具体化する作法を復活させた点に独自性がある。
【影響と継承】
カント的義務論の側からは動物に権利概念を適用することへの疑問が呈され、障害新生児をめぐる発言には障害者運動から厳しい批判が寄せられてきた。しかしヴィーガニズム、動物福祉法、GiveWellなどのエビデンス重視の慈善評価、ロングターミズムの議論にまで、その影響は広く及んでいる。
【さらに学ぶために】
『実践の倫理学』(昭和堂)が代表的な入門である。『あなたが救える命』も短く読みやすい。肉食や寄付や選挙といった身近な選択を倫理の言葉で捉え直すとき、シンガーの議論は避けて通れない。
主な思想
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