環境運動
かんきょううんどう
現代
自然環境の危機を哲学の問題にした社会運動
この出来事について
1960年代以降、環境破壊への危機感から広がった、科学・哲学・政治にまたがる大きな運動。
【何が起きたか】
レイチェル・カーソン『沈黙の春』(1962)が農薬による生態系破壊を告発し、環境問題が社会的課題として認識されるきっかけとなった。1970年のアースデイ、1992年の地球サミット、21世紀のIPCC報告や気候変動枠組条約を経て、環境保護は国際政治と日常倫理の双方で重要な課題となった。
【思想への影響】
環境倫理が新しい倫理学の一分野として成立した。ピーター・シンガーは動物の利益を平等に考慮すべきだと主張し、動物解放論を提示した。深層生態学(ネス)は人間中心主義を超えた自然観を展開した。ハンス・ヨナスは『責任という原理』で、未来世代や他の生命への責任を倫理の中心に据え直した。現代では人新世(Anthropocene)の哲学として、人類と地球の関係そのものが再考されている。
【現代とのつながり】
気候危機、持続可能性、エネルギー転換、食・農の倫理、動物福祉などの現代的問題は、すべてこの運動の思想的蓄積の上に議論されている。
さらに深く
【背景の深層】
環境運動の哲学的深層には、人間と自然の関係をめぐる根本的な問いの再燃がある。デカルト以来の近代哲学は人間を自然から切り離された主体として捉え、ベーコンは自然を人間の支配対象と位置づけたが、この二分法そのものが環境危機の思想的根源だと指摘されるようになった。リン・ホワイト・ジュニアはキリスト教的人間中心主義を生態学的危機の歴史的根源と論じた。レイチェル・カーソン『沈黙の春』(1962)は化学物質の生態系破壊を訴え、社会的関心を一気に高めた。1970年のアースデイ、1972年のローマクラブ報告『成長の限界』、1987年のブルントラント報告『我ら共有の未来』、1992年のリオ地球サミット、IPCC報告、パリ協定を経て、環境問題はローカルからグローバルへ拡大していった。日本の水俣病闘争や宇井純《ういじゅん》の公害研究もこの思想史の重要な一角を占める。
【影響の広がり】
ピーター・シンガー『動物の解放』(1975)は動物の利益を人間と同等に考慮する倫理を提示し、アルド・レオポルド『野生のうたが聞こえる』の土地倫理と並んで環境倫理の古典となった。アルネ・ネスの深層生態学は、浅い環境運動(人間の利益のための環境保護)と深い環境運動(自然そのものの内在的価値)を区別した。キャロリン・マーチャントやヴァンダナ・シヴァのエコフェミニズムは、自然支配と女性支配の構造的類似を論じた。ハンス・ヨナス『責任という原理』(1979)は未来世代への責任を倫理の中心に据え、技術時代の新しい倫理学を構想した。現代では人新世(Anthropocene)論、ブリュノ・ラトゥールの地球存在論とガイア論、ティモシー・モートンのダークエコロジー、ドナ・ハラウェイの多種共生論、気候正義論、人新世の資本論(斎藤幸平《さいとうこうへい》)、脱成長論など、環境哲学は急速に展開している。
【さらに学ぶために】
ハンス・ヨナス『責任という原理』は環境倫理の哲学的基礎を据えた20世紀末の名著である。レイチェル・カーソン『沈黙の春』は環境運動の原点であり、科学と倫理が結びつく文体の力を味わえる。