
デイヴィッド・リカード
David Ricardo
1772年 — 1823年
比較優位説を確立した古典派経済学の巨匠
この人物について
比較優位の理論で自由貿易の利益を証明し、経済学を精密な理論科学へと押し上げた古典派経済学の代表者。
【代表的な著書・業績】
1817年の『経済学および課税の原理』は地代論・価値論・分配論を抽象的モデルで体系的に展開した主著であり、古典派経済学の代表作とされる。差額地代論・比較優位説・労働価値説の精緻化はいずれもこの書で提示され、以後の経済学の骨格となった。議会議員として穀物法廃止をはじめとする自由貿易政策を訴え、実務家としての経験を政策論にも生かした。
【思想・考え方】
経済現象を抽象的モデルで分析する方法を確立し、スミスの叙述的な経済学をより理論的で厳密なものに発展させた。比較優位説では、ある国がすべての財の生産で劣っていても、相対的に得意な財に特化して貿易すれば双方が利益を得ることを論証し、自由貿易の経済的根拠を与えた。労働価値説をスミスから引き継ぎつつ厳密化し、地代は価格を決定する要因ではなく結果であると論じた。
【特徴的な点】
株式仲買人として独学で莫大な財産を築き、その後に学問へ転じた稀有な経歴を持つ。マルサスとの終生の論争と友情は経済学史の美談となっている。
【現代との接点】
比較優位説は国際貿易論の基礎として今なお教科書の必須項目であり、グローバル経済における自由貿易の意義を論じる際に不可欠の理論的枠組みである。
さらに深く
【生涯と業績】
デイヴィッド・リカードはロンドンのユダヤ人株式仲買人の家に生まれた。14歳から父のもとで証券取引を学び、クェーカー教徒の女性との結婚をきっかけに家と信仰を離れて独立した。ナポレオン戦争下の国債売買で莫大な財産を築いた実務家としての経験が、経済理論に独特の現実感覚を与えた。27歳でアダム・スミスの『国富論』に感銘を受けて経済学に目覚め、ジェイムズ・ミル(J.S.ミルの父)の強い勧めで著述に踏み出した。1817年に主著『経済学および課税の原理』を刊行し、下院議員として穀物法廃止と自由貿易を推進した。1823年、51歳で急死し、古典派経済学最大の理論家としての地位を残した。
【経済思想の核心】
リカードの理論的独創は、抽象的モデルによる経済の論理分析を確立した点にある。最大の貢献である比較優位説は、ポルトガルがワインも毛織物もイングランドより効率的に生産できても、両国が相対的に得意な財に特化して貿易すれば双方が利益を得ると論証した。直観に反するが論理は明快で、国際貿易論の基礎を形成した。また労働価値説を体系化し、商品の価値を投下労働量で測る立場を洗練させた。さらに穀物価格・地代・利潤・賃金の動学的関係を分析した差額地代論は、分配の理論としてマルサスと激しい論争を生み、経済学を社会階級の利害対立を扱う学問として確立した。
【影響と継承】
リカードの労働価値説はマルクスに継承され、『資本論』の理論的基盤の一つとなった。比較優位説はWTOやFTA交渉の場で繰り返し参照され、自由貿易擁護の最も強力な理論的根拠として今も教科書の必須項目である。他方でJ.S.ミル、マーシャルの新古典派、シュンペーターの経済発展論に至る系譜は、リカードの抽象的モデル構築の方法を前提として展開されている。現代ではクルーグマンらの新貿易理論、ピケティの分配論がリカード的な枠組みを拡張して格差問題に応答しており、古典理論は今なお理論的な出発点であり続けている。
【さらに学ぶために】
アダム・スミス『国富論』を先に読み、次いでリカード『経済学および課税の原理』に進むのが自然な順序である。マルクス『資本論』第一巻の価値論章を並読すれば労働価値説の継承関係が見える。根井雅弘《ねいまさひろ》『経済学の歴史』は古典派経済学の全体像を把握するのに有用である。


