
チャールズ・サンダース・パース
Charles Sanders Peirce
1839年 — 1914年
プラグマティズムと記号論の創始者
この人物について
プラグマティズムを創始し、記号論と論理学に革新をもたらした孤高の天才哲学者。
【代表的な思想】
■ プラグマティズムの格率
ある概念の意味はその実践的な結果の総体によって明らかになるという「プラグマティズムの格率」を最初に定式化した。ジェイムズが自分の思想を主観的に歪めていると感じ、後に自らの立場を「プラグマティシズム」と改称して区別した。
■ 記号論(セミオティクス)
あらゆる思考は記号の操作であるとし、記号を対象との関係からイコン(類似)・インデックス(因果的指示)・シンボル(規約的記号)に分類する三分法を提示した。ソシュールとは独立に記号の体系的理論を構築した。
■ アブダクション
演繹・帰納に加え、観察された事実から最善の説明仮説を推論する「仮説推論(アブダクション)」を第三の推論形式として導入し、科学的発見の論理を探求した。
【特徴的な点】
ジェイムズやデューイが社会的名声を得たのに対し、パースは学界から疎外され貧困の中で生涯を終えた。しかしその論理学・記号論・科学哲学における業績は同時代を遥かに先取りするものであった。
【現代との接点】
人工知能における推論モデル、コンピュータ科学の記号処理、科学哲学における仮説形成の問題など、パースの思想は現代の情報科学と科学方法論において再評価が急速に進んでいる。
さらに深く
【思想の形成】
チャールズ・サンダース・パースは1839年、マサチューセッツ州ケンブリッジにハーヴァード大学の数学教授ベンジャミン・パースの次男として生まれた。父は息子の才能を早くから見抜き、幼少期から論理学とチェスを教え込み、家庭の食卓では科学者仲間との議論に同席させた。ハーヴァード大学を経て化学で修士を取得し、1859年からアメリカ沿岸・測地測量局で約三十年にわたり働きながら、重力測定や天文観測で国際的な業績を残した。1879年にはジョンズ・ホプキンス大学で論理学を講じたが、私生活のスキャンダルにより学界を追われる。以後、ペンシルバニア州の田舎町ミルフォードに隠遁し、貧困のなか夫人ジュリエットに支えられて膨大な草稿を書き続け、1914年に没した。
【思想的意義】
1877年から78年にかけての論文「信念の確定の仕方」「われわれの観念を明晰にする方法」で提示されたプラグマティズムの格率は、概念の意味をそれが生み出しうる実践的効果の総体に求める。現象学(ファネロスコピー)では経験の諸要素を一次性・二次性・三次性という三項のカテゴリーに還元し、これが記号論の骨格にもなる。記号はその対象との関係に応じてイコン、インデックス、シンボルに分類され、解釈項を介した三項関係としてはじめて成立する。演繹と帰納に加え、意外な事実から最良の説明仮説を形成するアブダクションを推論の第三形式として位置づけたことは、科学的発見の論理を定式化する試みであった。自然法則の進化や偶然の実在を認めるティキズムなど、独自の宇宙論も展開した。
【影響と継承】
生前の影響は限定的で、ジェイムズがプラグマティズムを普及した際に独自の哲学への誤解を感じたパースは、自らの立場を「プラグマティシズム」と改称した。没後、1931年から刊行された『全集』によって本格的な再評価が始まり、モリスの記号論、カルナップの科学哲学、クワインのホーリズムに大きな刺激を与えた。ウンベルト・エーコは記号論の体系化にあたり彼を基礎に据え、アンガーソン・ハックらの新プラグマティストは真理論を刷新した。現代では人工知能のベイズ推論・因果推論や医療診断の枠組みがアブダクションの議論を再活性化し、パース研究は実用的含意とともに拡大を続けている。
【さらに学ぶために】
『連続性の哲学』は主要論文と宇宙論的論考を含む優れた選集である。伊藤邦武《いとうくにたけ》『パースの宇宙論』は日本語の本格的研究書として定評がある。米盛裕二《よねもりゆうじ》『パースの記号学』は記号論の骨格を平明に示す入門書である。
主な思想
影響を与えた人物
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