手元に1万円あります。相手に預けると、預けた額は3倍になって相手の手元に届きます。 相手はそこから好きなだけ返せますが、返さなくても構いません。相手が誰かは分かりません。
まずは選んでみてください。
まず、選んでみる
手元に1万円あります。相手に預けると、預けた額は3倍になって相手の手元に届きます。相手はそこから好きなだけ返せますが、返さなくても構いません。相手が誰かは分かりません。
いくら預けますか。
正解はありません。選ぶと、その答えがどの前提に乗っているかが出ます。
預けるほど、全体は豊かになります
この仕組みの要は、預けた瞬間に価値が3倍になるところです。
1万円を預ければ、世の中に3万円が生まれます。預けなければ1万円のままです。信じることが、実際に富を作っている。
ところが、返す義理はありません。理屈だけで考えれば、相手は全額を持ち去るはずで、それが読めるなら誰も預けません。結果、3万円は生まれずに終わります。
実験してみると、理屈どおりにはなりませんでした。多くの人が半分程度を預け、受け取った側も相応に返します。
4つの答えは、それぞれ別の哲学に立っている
自分の得で決める。0円。返す義理のない相手に預ける理由がない。損はしませんが、増えることもありません。
先に信じる。1万円。返ってこなければそれまでだが、預けなければ増えようがない。ルソーに近い立場です。信頼を、結果ではなく先行投資として置いています。
決め方をそろえる。5000円。預けてよい額を先に決めておき、そのつど迷わない。相手を見て判断するのをやめるやり方で、迷いのコストを削ります。
決めない。相手が誰かも分からないうちに、額を決める根拠がない。情報が足りないことを、そのまま扱う答えです。ただしこのゲームでは、預けないことと決めないことの結果が同じになります。保留は、0円と区別がつきません。
信頼は、道徳ではなく資本です
このゲームが示したのは、信頼がそのまま生産量になるということでした。
信頼の高い社会は、預ける額が大きくなり、生まれる富も大きくなります。信頼の低い社会では、同じ人が同じ能力を持っていても、生まれる総量が小さい。
だから信頼は、あればいいものではなく、無いと直接損をするものです。契約書、保証、審査、担保。これらは全部、信頼が足りないぶんを埋めるための費用です。信頼が高ければ、その費用は要りません。
返す側にも、理由があります
面白いのは、受け取った側がなぜ返すかです。一度きりで匿名なら、返す理由はありません。
実験では、受け取った側も相応に返し、預けた側は平均するとほぼ元が取れる程度になります。信じられたという事実そのものが、応えたい気持ちを生む。
ヒュームは、正義や約束が守られる理由を、生まれつきの徳ではなく、続く関係のなかで培われる習慣に求めました。信じ、応え、また信じるという往復が、習慣を作ります。
いま、この問いが出てくる場所
前払い、後払い、クラウドファンディング、フリマ。どれも、相手が応えるかどうか分からないまま先に渡す形をしています。
評価やレビューの仕組みは、この不安を減らす装置です。信頼を個人の性格でなく、記録として持ち運べるようにした。
信じられる相手を探すのではなく、信じても大丈夫な形を作る。 それが、このゲームから引き出せる実務的な答えです。