毎週やりとりのある相手が、今回だけ約束を守りませんでした。理由は分かりません。来週も、同じやりとりが続きます。
一度きりの囚人のジレンマなら、答えは決まっていました。裏切るのが得です。続くなら、話が変わります。
まずは選んでみてください。
まず、選んでみる
毎週やりとりのある相手が、今回だけ約束を守りませんでした。理由は分かりません。来週も、同じやりとりが続きます。
来週、どうしますか。
正解はありません。選ぶと、その答えがどの前提に乗っているかが出ます。
何度も戦わせてみた人がいます
政治学者ロバート・アクセルロッドが1980年、研究者たちに戦略のプログラムを送ってもらい、総当たり戦をやらせました。
優勝したのは、いちばん短いプログラムでした。名前はしっぺ返し。行数にして数行です。
最初は協力する
次からは、相手が前回やったことをそのまま返す
これだけです。複雑な読み合いをする長いプログラムが、ことごとく負けました。
4つの答えは、それぞれ別の哲学に立っている
やられたら返す。こちらも同じことをする。やられたままだと、次も同じことをされる。しっぺ返しの核心です。裏切りを割に合わなくする。ロックは、決まりを守らせる上位の存在がいない場所では、破られた側が自分で罰する権利を持つと論じました。ただしこれだけだと、誤解から報復合戦に入って抜けられません。
次があると考える。これまで通りにする。1回で決めつけると、続く関係を自分から壊す。関係が続くという事実そのものが、協力の理由になります。 ヒュームは、約束が守られるのは正義感からではなく、続く関係のなかで守るほうが得だからだと論じました。
決め方をそろえる。次に同じことがあったらどうするかを、先に取り決めておく。その場の感情を計算から外すやり方です。
決めない。理由が分かるまで、やりとり自体を進めない。急いで判断しないことで、誤解による報復を避けます。
しっぺ返しが強かった理由
アクセルロッドの分析はこうでした。強い戦略には4つの性質があった、と。
一つ、こちらから裏切らない。 二つ、裏切られたら必ず返す。三つ、返したら水に流す。 四つ、行動が読みやすい。
三つ目が効いています。永遠に恨む戦略は、一度の誤解から抜け出せず沈みました。許すことが、道徳ではなく戦略として強かった。
四つ目も重要です。読みにくい相手とは、誰も協力できません。 裏をかく能力が、かえって足を引っ張りました。
一度きりか、続くか
一度きりなら黙るより話すほうが得になる、あの囚人のジレンマの絶望と、この明るさの差は、関係が続くかどうかだけから来ています。
同じ二人、同じ損得でも、今日かぎりなら裏切り、来週も会うなら協力する。人が誠実になるのは、相手を見ているからではなく、明日を見ているからかもしれません。
だとすれば、社会にできることははっきりします。関係を続くものにすること。 顔が見えるようにし、記録が残るようにし、次があると分かるようにする。
いま、この問いが出てくる場所
取引先の評価、フリマの出品者評価、飲食店の口コミ。どれも一度きりの関係を、続く関係に変える装置です。
逆に、匿名で一度きりの場では、囚人のジレンマがそのまま出ます。同じ人が、場所によって別人のようにふるまうのは、人格の問題ではなく構造の問題だということが、ここから見えてきます。