訳
『訳文筌蹄』
やくぶんせんてい
荻生徂徠《おぎゅうそらい》·近代
和訓を排し漢文を中国語として読む徂徠の語学書
哲学認識論
この著作について
荻生徂徠が初編6巻を1715年(正徳5)に刊行し、後編3巻が1796年に追刻された語学書である。日本の漢文訓読の限界を批判し、漢文を中国語のテキストとして読む方法、すなわち徂徠が「訳文の学」と呼ぶ方法を理論的に整備した著作である。
【内容】
本書は同じ訓で読まれるものの意味の異なる漢字1675字を取り上げ、用例とともに分類・比較する。たとえば「考」と「思」、「慮」と「察」など、和訓では同じく「おもう」と読まれてしまう語が、中国語においていかに区別されているかを丁寧に示す。和訓に頼った理解の不正確さを暴き、漢文を本来の言語秩序の中で捉え直すことを目指す。
【影響と意義】
本書は徂徠の古文辞学の方法論を支える重要文献である。古典中国語の語彙構造を再構成する作業は、後の『弁道』『弁名』における経学的思考の前提となった。日本の漢学史において、訓読法の批判的相対化を体系的に試みた最初の語学書として位置づけられる。
【なぜ今読むか】
母語のフィルターを通して外国語のテキストを誤解する仕組みを、本書は鋭く問題化する。翻訳論と外国語学習の理論を考える上で、近代以前の日本に成立した精緻な議論として読み返す価値がある。
著者
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