『快楽の活用』
かいらくのかつよう
ミシェル・フーコー·現代
古代ギリシアの性倫理を主体化の技法として読み解いた性の歴史第二巻
この著作について
ミシェル・フーコー(Michel Foucault)が1984年に刊行した晩年の主著(原題『L'Usage des plaisirs』)。『性の歴史』全四巻の第二巻をなし、第一巻『知への意志』(1976)の近代的権力論から、古代ギリシア・ローマにおける自己の技法(techniques de soi)へと大きく方向転換した晩年のフーコーを代表する著作である。
【内容】
本書は古代ギリシア古典期の性愛、とくに貴族男性の倫理的自己形成における快楽(aphrodisia)の扱い方を論じる。古代ギリシア人にとって性愛は「禁欲すべき快楽」ではなく、いかに節度と巧みさをもって享受するかという美的・倫理的技法(ethike)の対象であった。食事・身体鍛錬・性交・少年愛・婚姻における快楽の取り扱いが、それぞれ異なる自己実践の領域として分析される。近代的な「性」が告白・科学・法の対象であるのに対し、古代的な性愛は自己が自己の主人であることを示す生の様式であった。この視点の転換を通じて、フーコーは権力分析から主体化の分析へ、知の考古学から自己の系譜学へと、自らの仕事の枠組みそのものを更新していく。
【影響と意義】
本書は『自己への配慮』(1984)『肉の告白』(2018、死後刊行)とともに、晩年フーコーの倫理的転回を示す基本文献である。ピエール・アドの古代哲学の精神修養論、バトラーのパフォーマティヴィティ論、アガンベンのフーコー継承に直接の系譜を残した。
【なぜ今読むか】
ウェルネス・マインドフルネス・セルフケアが消費財になった時代に、自己を自己として形成する古代的技法の回想は、現代的実践の誠実さを測る補助線となる。
著者
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