『神学大全』
しんがくたいぜん
トマス・アクィナス·中世
中世スコラ哲学の最高峰にしてキリスト教思想の体系
この著作について
ドミニコ会士トマス・アクィナスが神学生のために13世紀後半に書き続け、未完のまま遺された中世スコラ哲学の最高峰。
【内容】
全体は第1部(神論と創造論)、第2部(倫理論)、第3部(キリスト論・秘跡論)からなる大著。論述は独特の「討論問題(クァエスティオ)」形式をとり、各主題について「異論」を並べたうえで、権威による反証、本論の解答、個々の異論への応答、の四段階で進む。アリストテレス哲学・新プラトン主義・イスラーム哲学・教父の伝統が緻密に統合され、神の存在証明の「五つの道」、自然法論、徳と七つの大罪、秘跡論などが体系的に配置される。
【影響と意義】
理性と信仰をともに尊重し、哲学と神学を分離しつつ調停するというトマスの態度は、その後のカトリック思想の背骨となった。19世紀末の教皇回勅以降はカトリックの公式哲学の基盤ともなり、自然法論は近代人権思想・国際法・生命倫理にまで影響を及ぼした。異論を正面から引用して論駁するスコラ的方法は、現代の討論教育にも通じる。
【なぜ今読むか】
「自分と反対の立場をまず真剣に引用する」という姿勢は、SNS時代の浅い断罪に疲れたとき、思考の誠実さとは何かを思い出させてくれる。全体を読み通さずとも、気になる一問ずつ拾うだけで十分に奥深い。
さらに深く
【内容のあらまし】
本書は学生のための入門書として企画された。トマスは前書きで、神学の初学者が無秩序な議論や些末な疑問に振り回されている現状を嘆き、教えるべき順序に従って体系的に提示すると宣言する。全体は三部構成で、第一部は神とその働き、第二部は神に向かう人間の歩み、第三部はその道を備えるキリストと教会の秘跡を扱う。各部は問題群に分けられ、各問題は条項に分かれ、各条項が一定の四段階形式をとる。問いを立て、まず反対の立場を異論として挙げ、続いて聖書や教父からの権威で本論を支え、ついで本論を述べ、最後に最初の異論一つ一つに応答する。この討論問題形式が全巻を通じて律儀に守られる。
第一部は神の存在から始まる。第二問題で、神が存在することは自明ではないが証明可能だとして、五つの道が示される。運動からの論証、作用因からの論証、可能と必然からの論証、完全性の段階からの論証、目的論的論証である。続いて神の単純性、完全性、無限、不変、永遠、一性が一つずつ扱われ、神について何を肯定し何を否定できるかが慎重に区分される。三位一体論を経て天使論、創造論、人間論へと進み、人間の魂が身体の形相であるとするアリストテレス的な構図が打ち立てられる。
第二部は人間の倫理生活に充てられ、量も最大の部分を占める。第二部第一部では幸福論、行為論、情念論、習慣論、徳論、罪論、法論、恩恵論が扱われる。法は永遠法、自然法、人定法、神法に分けられ、自然法こそが人間理性が永遠法に与る形だと位置づけられる。第二部第二部では信仰、希望、愛という対神徳と、思慮、正義、剛毅、節制という枢要徳が一つずつ深く論じられ、各徳に伴う賜物や反対の悪徳まで取り上げられる。
第三部はキリスト論から始まり、受肉の適合性、二つの本性の合一、キリストの知恵と恵み、その生涯の出来事が論じられる。続いて秘跡論に入り、洗礼、堅信、聖体に進んだところでトマスは沈黙する。1273年12月、ミサ中の体験のあと「私が見たものに比べれば、私が書いたものはすべて藁屑のようだ」と言って執筆を停止し、翌春に世を去った。残された未完の枠組みは弟子たちが補遺で埋めたが、本人の手による筆はそこで止まる。徹底的に整序された壮大な体系が、最後に沈黙によって括られる結末は本書を独特のものにしている。
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