『スタンツェ』
ジョルジョ・アガンベン·現代
西洋詩学の核心に愛の喪失と亡霊的形象を探るアガンベン初期の代表作
この著作について
ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben)が1977年に刊行した文学理論と哲学の境界を横断する著作(原題『Stanze: La parola e il fantasma nella cultura occidentale』)。アガンベンの初期を代表する思想的エッセイで、のちの『ホモ・サケル』シリーズの詩学的・言語論的基盤を形づくる著作である。
【内容】
本書は四部構成をとる。第一部「亡霊(Fantasmi)」では、中世の愛の精神病理学が取り上げられ、憂鬱(melancholia)が失った対象への愛的固着として読み解かれる。第二部「生ける亡霊(Nei fantasmi di Eros)」では、ダンテからペトラルカへと続く愛の抒情詩の伝統が、不在の対象を亡霊的表象として詩的に保持する実践として論じられる。第三部「自画像としての言葉(La parola e il fantasma)」では、トマス主義心理学・占星術・錬金術の知的伝統がルネサンス詩学へと流入する経路が追跡される。第四部「倒錯した紋章(L'imagine emblematica)」では、バロックの紋章学・アレゴリー・寓意論が扱われる。通底するのは、西洋詩学が不在と喪失を言葉で保存する独特の運動を育ててきたというテーゼである。
【影響と意義】
ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』、ハイデガー、ヴァールブルクの残像学、ハンス・ブルーメンベルクの神話研究を独自に継承した本書は、カルチュラル・スタディーズ、精神分析批評、中世研究、クィア批評に多方面の影響を残した。のちのアガンベンの「残りの時」「裸形性」「世俗化」といった概念の胚胎地でもある。
【なぜ今読むか】
SNS時代の喪失と離別・推し活・記憶の残像といった新しい情動のあり方を、西洋詩学の深い地層から考える補助線として、本書は驚くほど今日的である。