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生

『生きた隠喩』

いきたいんゆ

現代

隠喩を意味論の中心に据えたリクール解釈学の主著

哲学

この著作について

ポール・リクールが1975年に公刊した大著。副題は「言語におけるそうぞう力の研究」。解釈学の立場から隠喩(メタファー)を正面から論じた、20世紀の言語哲学・詩学の最重要著作の一つである。

【内容】

全8章。アリストテレス『詩学』『弁論術』の古典的隠喩論から始め、ロマン派、フォンタニエ、ヤコブソンらを経由して、ベイトソン、リチャーズ、ブラック、デイヴィドソンらの現代分析哲学の隠喩論までを一望する。リクールの中心主張は、隠喩は単なる修辞的装飾ではなく、新しい意味を産出する「発話事象」であり、世界を新しい仕方で再記述する力を持つ、という点にある。字句通りの意味と隠喩的意味のあいだの生産的緊張が、解釈学における「読み」の本質であると論じる。

【影響と意義】

隠喩研究を修辞学から哲学と解釈学の中心に押し上げた画期的著作で、文学理論・神学・法哲学・認知言語学(レイコフ、ジョンソン)へと射程が広がった。後の『時間と物語』へとつながる、リクール中期の理論的頂点でもある。

【なぜ今読むか】

LLMが隠喩を生成し解釈する時代に、「比喩とは何か」を哲学史の総決算として考え直したい読者に効く。詩を読むことの知的強度を取り戻す一冊である。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は八つの「研究」からなり、修辞学から言述の意味論へ、さらに指示の問題と哲学の言述へと歩みを進める。

第一研究はアリストテレスを読む。『詩学』は隠喩を、あるものに別のものの名を移すことと定義し、類から種へ、種から類へ、種から種へ、類比による、の四つの型に分けた。リクールは、名詞を言述に結びつける語に目を向ければ、隠喩論の重心を名詞から文へ、さらに言述へ移せると見る。うまく隠喩を作るとは似たものを見てとることだという一節に目をとめ、説得をめざす『弁論術』の隠喩と、創作の働きを担う『詩学』の隠喩とを分けて論じるのもここである。

第二研究は、修辞学が衰えて比喩(トロープ)の理論になっていく過程をたどる。そこでは隠喩は語の意味のずれ、つまり物の風変わりな呼び方として扱われ、観念と語を第一に置くフォンタニエの比喩論が検討される。第三研究で舞台は文を単位とする言述の意味論に移る。記号と文を別の単位として分けたバンヴェニストを入口に、趣意と媒体を立てたリチャーズ、焦点と枠の相互作用を説いたブラック、字義どおりには自己矛盾した属性づけが二次的な意味を呼び起こすとしたビアズリーを順に吟味していく。

第四、第五研究では、記号の一元論とソシュールの前提に立つ語の意味論と、逸脱を軸にした新しい修辞学を取り上げる。語を意味の最小単位の束とみなし、隠喩を言語の規則への違反として測るコーエンやリエージュのグループの分析は、新しい意味が生まれる場面と、言葉の外の世界への指示を見落とすという代償を払っていると批判される。第六研究は類似の働きに向かい、XをYとして見ることには、XはYではないが、ある点ではYであるという緊張がはらまれると論じる。

第七研究は指示の問題に取り組む。詩は現実を指さないとする見方に対し、リクールは、詩の言語では指示が消えるのではなく二重になるというヤコブソンの指摘を手がかりにする。科学のモデルと隠喩を並べる議論を経て、「である」という繋辞《けいじ》のなかで「である」と「でない」がせめぎ合うところに、隠喩的真理の考えを見いだす。最後の第八研究は哲学の言述と隠喩の関係を扱う。アリストテレスの存在の多義性と、存在の類比の教説をたどり、ここで初めてデリダの隠喩論に正面から応じたうえで、生きた隠喩を、概念の思考に向けられた要請として位置づける。

著者

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