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『ルーゴン=マッカール叢書』

るーごんまっかーるそうしょ

エミール・ゾラ·近代

第二帝政下フランスを描く全20巻の自然主義大河

文学

この著作について

フランスの自然主義作家エミール・ゾラ(Émile Zola、1840〜1902)が1871年から1893年にかけて発表した全20巻の連作小説群。副題は「第二帝政下のある一家族の自然的かつ社会的歴史」で、遺伝と環境による人間形成というドキュメンタリー的構想に基づく。

【内容】

本叢書は第1巻『ルーゴン家の誕生』(1871)から最終巻『パスカル博士』(1893)まで、ナポレオン3世の第二帝政期(1852〜70)を舞台にルーゴン家とマッカール家という二系統の親族の盛衰を描く。代表作には炭鉱労働者を描く『ジェルミナール』(1885)、百貨店の勃興を描く『ボヌール・デ・ダム百貨店』(1883)、画家を描く『制作』(1886)、酒に蝕まれた労働者一家を描く『居酒屋』(1877)、娼婦を描く『ナナ』(1880)が並び、商人・農民・将軍・聖職者・芸術家・労働者・娼婦・囚人・貴族夫人のそれぞれの没落が、タイプ人物の展示会のように立ち並ぶ。

【影響と意義】

リアリズム小説の金字塔として、ドストエフスキー『罪と罰』、ゾラ『居酒屋』、モーム『人間の絆』、現代のテレビ・ドラマの家族金銭闘争の原型に至るまで、膨大な影響を広げてきた。日本では田山花袋《たやまかたい》・島崎藤村《しまざきとうそん》ら自然主義文学の理論的源泉となった。

【なぜ今読むか】

格差社会と消費社会の起源を文学として体感できる稀有な作品群である。

どの訳で読むか

叢書20巻のうち13巻は論創社の「ルーゴン・マッカール叢書」に、6巻は藤原書店の「ゾラ・セレクション」に入っていて(第11巻は両方にある)、どちらにも無い第7巻の『居酒屋』は新潮文庫の古賀照一訳で読める。版元のサイトで在庫ありと表示されているのは、論創社では第11巻の2023年版、第16巻、第20巻だけで、藤原書店では叢書の第5巻を除く5作である(2026年10月時点)。もう一つ両シリーズに無い第14巻には岩波文庫の清水正和訳(上下)があるが、版元では品切れと表示されている(2026年10月時点)。

  • 小田光雄訳・伊藤桂子訳論創社「ルーゴン・マッカール叢書」、2002〜2023年

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    叢書のうち13巻を収める。伊藤桂子が第1巻、第2巻、第11巻を、小田光雄が第4巻、第6巻、第9巻、第10巻、第12巻、第13巻、第15巻、第16巻、第19巻、第20巻を訳した。第11巻は2002年に出たあと、2023年に624ページの版が出た。版元のサイトでは第11巻の2023年版、第16巻、第20巻が在庫あり、ほかの巻は品切れ・重版未定と表示されている(2026年10月時点)。

  • 朝比奈弘治、清水正和・倉智恒夫、石井啓子、吉田典子、寺田光徳、野村正人訳藤原書店「ゾラ・セレクション」、2003〜2004年(一部は2026年に新版)

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    宮下志朗・小倉孝誠の責任編集による全11巻・別巻1の選集で、叢書からは第3巻、第5巻、第8巻、第11巻、第17巻、第18巻の6作を収め、訳者は巻ごとに違う。叢書の第8巻を収めた巻には、一族の家系図が付く。2026年には並製の新版で、叢書の第3巻(朝比奈弘治訳・解説)と第17巻(寺田光徳訳・解説)が出た。版元のブックストアでは、叢書の第5巻(清水正和・倉智恒夫訳)が在庫切れと表示されている(2026年10月時点)。

  • 古賀照一訳新潮社・新潮文庫、2006年(改版)

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    叢書の第7巻『居酒屋』の訳で、論創社と藤原書店のどちらのシリーズにも入っていない巻である。文庫1冊に収め、NDLの書誌では2006年1月に改版されている。

  • 川口篤・古賀照一訳新潮社・新潮文庫、2006年

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    叢書の第9巻の訳を文庫1冊に収める。同じ巻の論創社版(小田光雄訳)は、版元で品切れ・重版未定と表示されている(2026年10月時点)。

  • 清水正和訳岩波書店・岩波文庫(上下)、1999年

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    叢書の第14巻、画家の創作の苦闘と自殺を描いた制作の訳で、論創社と藤原書店のどちらのシリーズにも入っていない巻である。上巻は382ページ、下巻は372ページで、版元のサイトでは上下とも品切れと表示されている(2026年10月時点)。

さらに深く

【内容のあらまし】

1871年7月1日付の第1巻の序文で、ゾラは一つの家族が社会のなかで十人、二十人へと枝分かれし、見かけはまるで違う者どうしが分析すれば固く結ばれているさまを示すと宣言し、「L'hérédité a ses lois, comme la pesanteur.(遺伝には、重力と同じように法則がある)」と書く。この一族に、クーデタの罠からセダンの裏切りまでの帝政を語らせるという。第1巻を書き上げたころにボナパルト家が倒れ、作品は恐ろしくも必然の結末を得たとも記す。

物語は南仏の架空の町プラッサンの外れ、もとは墓地だった材木置き場から始まる。1851年12月の月夜、少年シルヴェールは銃を板の山に隠し、置き忘れられた墓石に腰かけて待つ。塀を越えて恋人ミエットが来る。翌朝には共和派の蜂起軍に加わるつもりで、やがて街道の曲がり角から「ラ・マルセイエーズ」を歌う隊列が現れる。一族の祖は、父が狂って死んだ娘アデライード・フークだ。庭師ルーゴンとのあいだに息子ピエールが、夫の死後に愛人にした密輸業者マッカールとのあいだにアントワーヌとユルシュルが生まれる。

ピエールの末息子アリスティッドは、第2巻でクーデタ直後のパリに出る。兄ウージェーヌの世話で姓をサカールと改め、百スー硬貨を数える音がする名前だと得意がり、市庁舎に職を得る。モンマルトルの丘の料理店で、彼は妻に夕暮れのパリを見せ、ここに一本、あそこにもう一本と手で切れ目を入れてみせる。

マッカール家の側の『居酒屋』は、恋人ランティエの帰りを夜中の二時まで窓辺で待つジェルヴェーズの姿で始まる。彼女の子どもたちは、のちにそれぞれ主人公になる。娘ナナは第9巻に劇場の女優として登場し、エティエンヌは第13巻『ジェルミナール』の冒頭で、星のない三月の夜、モンスーへ向かう石畳の一本道をひとりで歩いてくる。クロードは第14巻で画家として生き、機関士になったジャックは、第17巻で機関車を走らせる。

第19巻では、妻と土地を失い39歳で再入隊して伍長に戻ったジャン・マッカールの連隊が、プロイセン軍を待ち受ける。ゾラは1878年に第8巻へ家系図を付けたとき、これは1868年、一行も書く前に作ったものだと断り、最後の巻では医師パスカルの観察の成果として示すと予告していた。その最終巻は、灼けつく七月の午後、パスカルが古い樫《かし》の戸棚の前に立つ場面で始まる。最上段だけは整い、青い紙挟みの一つひとつに一族の名が書かれている。パスカルは姪で弟子のクロチルドに触るなと禁じるが、母フェリシテが孫娘をそそのかし、椅子の上から紙挟みに爪を伸ばしたところへ、パスカルが入ってくる。

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