居
『居酒屋』
いざかや
ゾラ·近代
ゾラの自然主義小説
哲学
この著作について
エミール・ゾラが構想した二十巻の連作「ルーゴン=マッカール叢書」の第七作で、パリの労働者街の暮らしを正面から描き、ゾラの名を国民的作家へと押し上げた長編。
【内容】
舞台は第二帝政下のパリ北部、労働者の路地裏の世界である。洗濯女のジェルヴェーズは、酒浸りで暴力的な愛人ランチエに捨てられて上京するが、屋根職人クーポーと結婚し、やがて自前の洗濯店を構えて一度は人生を取り戻す。しかし屋根からの転落事故でクーポーが酒に溺れるようになり、往年の愛人ランチエが同居人として舞い戻るにつれ、ジェルヴェーズの生活と身体は静かに崩壊していく。地区の人々の喧騒、洗濯女の大立ち回り、居酒屋「居酒屋(ラソムワール)」の密室での酩酊、結婚式と葬儀の長い場面描写が、労働者の匿名性を破って一人一人の顔を浮かび上がらせる。
【影響と意義】
ゾラが掲げた「実験小説」の理念(社会を観察し遺伝と環境の作用を解析する)が最も濃密に実現した作品である。労働者階級を従属的な脇役ではなく主人公として扱い、民衆のパリ方言を地の文に取り込んだ点で、以後のフランス小説に決定的な影響を与え、二十世紀のプロレタリア文学や社会派ルポルタージュの先駆ともなった。
【なぜ今読むか】
貧困・アルコール・家庭内暴力・依存が生活をむしばむ構造は、形を変えて現代にも続いている。道徳的判断を前面に出さず冷静に描くゾラの方法は、社会問題を語るときの感情と距離の取り方を考えさせる古典的教材である。