六
『六祖壇経《ろくそだんきょう》』
ろくそだんきょう
(伝)慧能·古代
中国禅宗第六祖・慧能の説法を記録した中国仏教唯一の「経」
哲学アジア
この著作について
唐代の禅僧・慧能の説法と伝記を弟子・法海らが記録した文書。中国人の手になる仏典の中で唯一「経」と尊称された極めて稀な著作で、東アジア禅の最重要経典である。
【内容】
冒頭で慧能の自伝が記される。嶺南の貧しい樵が『金剛経』の一句を聞いて発心し、五祖弘忍のもとで碓を踏む下働きを経て、神秀との偈の競作によって法を継いだ過程が語られる。続く本論では「自性は本より清浄」を出発点に、「頓悟《とんご》(即座の悟り)」「無念・無相・無住」「定慧一体」を実践指針として展開する。坐禅を形式として固定するのではなく、生活全体が修行の場となるべきだと説く。後半は弟子たちとの問答や臨終の言葉が収められる。
【影響と意義】
本書をもって南宗禅が確立され、北宗・神秀系を圧倒して中国禅の主流となった。慧能の弟子・南嶽懐譲と青原行思の二系統から五家七宗(臨済・潙仰・曹洞・雲門・法眼)すべてが派生する。日本の臨済宗(栄西《えいさい》)・曹洞宗(道元《どうげん》)も慧能の系譜の延長にある。中国仏教史上、最も読まれた仏典の一つで、敦煌本・宗宝本など複数の伝本があり、その異同が研究上重要なテーマである。
【なぜ今読むか】
学問的素養を欠く樵が悟りに至るという物語構造は、知的階級独占の宗教を庶民にも開く象徴として今も生きる。「ありのままの自己を認める」という現代的読解にもつなげやすく、禅の出発点を直接読める数少ない経典である。
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