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オ

『オセロー』

近代

嫉妬と偽りに破滅するムーア人将軍を描いたシェイクスピア四大悲劇の一つ

文学

この著作について

ウィリアム・シェイクスピアが1603年ごろに執筆したとされる五幕の悲劇。『ハムレット』『リア王』『マクベス』と並ぶ彼の四大悲劇の一つで、嫉妬と人種偏見を主題とした唯一の作品。

【内容】

ヴェネツィア共和国に仕えるムーア人将軍オセロは、元老院議員の娘デズデモーナと密かに結婚するが、副官昇進で不満を抱いた旗手イアーゴーの巧妙な策略により、妻の不貞を信じ込まされていく。ハンカチという些細な物証を梃子にしてオセロの理性は崩壊し、自分を誠実に愛した妻を寝室で絞殺したのち、真相を知って自害する。最高傑作級の悪役イアーゴーの無底の悪意と、英雄の急速な内部崩壊が交錯し、言葉による他者像の書き換えが人を殺すまでの過程が精緻に描かれる。

【影響と意義】

嫉妬・信頼・他者理解・人種をテーマにした西洋演劇の古典中の古典であり、ヴェルディのオペラ化(1887)により音楽史上も重要。20世紀後半以降は人種表象をめぐる批評的論点として再読されてきた。

【なぜ今読むか】

フェイクニュースと偏見が他者理解を破壊する時代に、「信じる」ことの脆さを最も鋭く描いた作品。

どの訳で読むか

新しい文庫で選ぶなら、版元が原文のリズムや韻を生かしたとうたう2018年の河合訳と、中野春夫の解説がつく2006年の松岡訳が目安になる。英語の原文と見比べながら読みたいなら、見開きで原文と訳を並べ、解説のつく研究社の大場訳がある。新潮文庫の福田訳と、全37作を一人で訳したシリーズに入る白水Uブックスの小田島訳は、どちらも電子書籍でも読める。

  • 福田恆存訳新潮社・新潮文庫、1973年

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    版元の紹介文は「格調高き名訳」とうたう。電子書籍もある。

  • 小田島雄志訳白水社・白水Uブックス、1983年

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    新書判。小田島がシェイクスピアの全37作を一人で訳したシリーズの第27巻で、版元はこのシリーズを、全劇作を「生きた日本語に移した名翻訳」と紹介している。電子書籍もある。

  • 松岡和子訳筑摩書房・ちくま文庫、2006年

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    ちくま文庫のシェイクスピア全集の第13巻で、中野春夫の解説がつく。電子版もある。

  • 大場建治訳研究社・対訳・注解 研究社シェイクスピア選集、2008年

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    見開きで日本語訳と英語の原文を並べる対訳版で、補注がつき、版元は懇切丁寧な解説もあると紹介している。B6判上製、382頁。訳文だけを収めた研究社シェイクスピア・コレクション版(2010年)もある。

  • 河合祥一郎訳KADOKAWA・角川文庫、2018年

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    書名は「新訳 オセロー」。版元の紹介文は、原文のリズムや韻を生かした訳だとうたう。

  • 石井美樹子訳河出書房新社、2021年

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    書名は「真訳シェイクスピア四大悲劇」で、『ハムレット』、『リア王』、『マクベス』とあわせた4作を1冊に収める。単行本で444ページ。

ほかに、岩波文庫の菅泰男訳(1960年、書名は「オセロウ」)がある。古くは坪内逍遙訳(1911年)があり、国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されている。

さらに深く

【内容のあらまし】

幕が開くのは夜のヴェネツィアの通りだ。旗手イアーゴーは、デズデモーナに焦がれて金を貢いできたロダリーゴーに、戦場を知らない算術家のキャシオーが副官に選ばれた不満をぶちまけ、自分は見かけどおりの人間ではないと言い放つ。二人は元老院議員ブラバンショーを叩き起こし、娘がムーア人のもとへ行ったと騒ぎ立てる。トルコ艦隊がキプロスへ向かうという知らせで元老院に呼ばれたオセローは、戦場での危難や、敵に捕らえられ奴隷に売られた身の上を語る自分の話をデズデモーナが涙して聞き、その危難ゆえに愛してくれたと述べる。父は、父を欺いた娘はおまえも欺くかもしれないと言い残す。独りになったイアーゴーは、ムーア人が憎いと語り、キャシオーと奥方の仲をオセローの耳に吹き込む企みを思いつく。

第2幕、嵐でトルコ艦隊の大半が難破し、一行はキプロスで再会する。祝いの夜、イアーゴーはキャシオーに酒を勧めて騒ぎを起こさせ、オセローは「キャシオー、お前を愛しているが、もう私の副官ではない」と彼を解く。評判を失ったと嘆くキャシオーに、イアーゴーは奥方にとりなしを頼めと勧める。

第3幕第3場、デズデモーナのもとを去るキャシオーを見て、イアーゴーは「おや、気に入りませんな」とつぶやき、嫉妬は緑の目をした怪物だと忠告するふりをする。額が痛むという夫に巻こうとしたハンカチが落ち、エミリアが拾って夫のイアーゴーに渡す。彼は、空気のように軽いものも嫉妬する者には聖書の証のように強いと独りごち、それをキャシオーの宿に落とすつもりだと言う。オセローは目に見える証拠を迫り、次の場では、エジプトの女が母に与え、巫女が縫ったというハンカチの来歴を語って妻を問い詰める。

第4幕のオセローは発作で倒れ、イアーゴーに促されて物陰に隠れ、キャシオーが彼と交わす話を盗み聞きする。そこへ現れたビアンカがハンカチを突き返すのを見て、それが他の女の手にあると知る。ヴェネツィアからの使者の前で妻を打ち、その夜デズデモーナは、母の侍女バーバリーが歌った柳の歌を口ずさむ。

第5幕、眠る妻のそばでオセローは「Put out the light, and then put out the light(灯を消し、それから命の灯を消す)」とつぶやき、祈る時間を乞う妻の命を奪う。一度息を吹き返した妻は、誰の仕業かと問われ、自分でしたと言い残して死ぬ。エミリアがハンカチの真相を明かし、イアーゴーは妻を刺す。何も聞くな、もう一言も話さないと口を閉ざす彼の前で、オセローは、賢くではなくあまりに深く愛した男として語ってくれと頼み、自らを刺して妻の上に倒れる。

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