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ハ

『ハムレット』

近代

行動と思索の葛藤を描いたシェイクスピアの四大悲劇の一つ

文学

この著作について

ウィリアム・シェイクスピア四大悲劇の一つで、復讐と思索の狭間で引き裂かれる青年王子の物語を描いた、世界文学の金字塔。

【内容】

デンマーク王子ハムレットは、亡き父王の亡霊から「弟クローディアスに毒殺された」との告白を受け、復讐を誓う。しかし彼は性急に行動せず、狂気を装いながら真相を探り、巡業劇団に父王殺害と類似した劇を演じさせて叔父を動揺させる(劇中劇)。母ガートルード、宰相ポローニアス、恋人オフィーリア、親友ホレイショー、友人ローゼンクランツとギルデンスターンとの関係が絡み合い、偶然の殺人、狂気、死が連鎖して、最終幕で宮廷は血の海と化す。「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」の独白は、世界文学屈指の名場面として知られる。

【影響と意義】

近代的自我の原型を提示した作品として、ロマン派以降の文学・哲学・精神分析に絶えず参照され続けてきた。ゲーテ、ヘーゲル、S・T・コールリッジ、フロイト、ラカン、ブルームらがそれぞれの仕方で読み解き、映画、現代演劇、詩、漫画にまで果てしない翻案と応用を生んだ。

【なぜ今読むか】

復讐譚の筋書きを越えて、「人間はなぜ行動できないのか」という普遍的問いを鮮烈に差し出す。韻文の美しさと哲学的密度が同時に味わえる、ただ一度は向き合っておきたい古典である。

どの訳で読むか

新しい訳で注のついたものを選ぶなら2024年に改訂された河合訳が目安になり、脚注と補注を備えたものなら岩波文庫の野島訳もある。短いQ1から入りたいなら安西訳がある。独白の一句は訳によって大きく違うので、訳文を見比べて選ぶのもよい。

  • 福田恆存訳新潮社・新潮文庫、1967年

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    2010年に改版された。訳者自身の解題と「シェイクスピア劇の演出」という一文、中村保男の解説、年譜を収める。版元の訳者紹介によれば、福田のシェイクスピア翻訳は読売文学賞を受けている。独白の一句は「生か、死か、それが疑問だ」と訳されている。

  • 小田島雄志訳白水社・白水Uブックス、1983年

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    新書判。小田島がシェイクスピアの全37作を一人で訳したシリーズの第23巻にあたる。版元はこのシリーズを、全劇作を「生きた日本語に移した名翻訳」と紹介している。独白は「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」と訳される。

  • 松岡和子訳筑摩書房・ちくま文庫、1996年

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    坪内逍遥、小田島雄志に続く3人目の全37作の個人全訳の第1巻。脚注と河合祥一郎の解説に加え、日本での上演年表がつく。独白は「生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ」と訳される。

  • 河合祥一郎訳KADOKAWA・角川文庫、2024年増補改訂版(初版は2003年)

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    2003年に角川文庫で出た訳を、2024年に増補改訂した。版元は、原文のリズムとライム(韻)を全訳した日本初の訳と紹介している。1623年刊の第一・二つ折本(F)にもとづき、四つ折本(Q)との違いも注記する。独白は「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と訳される。

  • 野島秀勝訳岩波書店・岩波文庫、2002年

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    岩波文庫の新訳として出た文庫で、解説、脚注、補注を収める。独白は「生きるか、死ぬか、それが問題だ」と訳される。

  • 安西徹雄訳光文社・光文社古典新訳文庫、2010年

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    1603年に出た最初の四つ折本(Q1)を訳したもの。Q1は1604年のQ2や1623年のFより1600行以上短い。版元はQ1を現行の版の原形と紹介するが、Q1とほかの版との関係は研究者のあいだで定説がない。独白は「生か死か、問題はそれだ」と訳される。

ほかに、永川玲二訳(集英社文庫、1998年)、英語の原文と並べた大場建治訳(研究社、対訳・注解版は2004年)、四大悲劇を1冊に収めた石井美樹子訳(河出書房新社、2021年)、英語の原文と同じページに載せた坪内逍遥訳の1冊本(第三書館、2016年)がある。

さらに深く

【内容のあらまし】

幕は冬のエルシノア城の城壁から開く。歩哨たちが亡き王の亡霊を目撃し、王子ハムレットを呼び寄せる。父の急死直後に母ガートルードが叔父クローディアスと再婚した不実への嫌悪に苛まれていたハムレットの前に、亡霊は現れて告げる。自分は弟に毒を耳に注がれて殺された、復讐せよ。ハムレットはこの言葉が悪魔の罠かもしれないと疑い、すぐには動かず狂気を装うことを選ぶ。

第二幕から第三幕にかけて、宮廷では計略が交錯する。宰相ポローニアスは娘オフィーリアを使ってハムレットの狂気の原因を探らせ、王と王妃は学友ローゼンクランツとギルデンスターンを呼び寄せて王子を見張らせる。旅の劇団が城に到着すると、彼は父王殺害に似た劇を演じさせることを思いつく。ハムレットは「生きるべきか死ぬべきか」と独白し、自殺の誘惑と行動の躊躇のあいだで揺れる。やがて劇の上演中に動揺するクローディアスの表情から、彼は罪を確信する。

決定的瞬間に彼は躊躇する。祈っているクローディアスを背後から突くことができたのに、祈っているうちに殺せば天国へ送ってしまうとためらい、剣を収める。直後、母の寝室で物陰に隠れていた人物を王だと思って刺し殺すが、それは隠れて聞き耳を立てていたポローニアスだった。父を殺された衝撃でオフィーリアは正気を失い、川辺で歌を歌いながら水に落ちて死ぬ。

ハムレットはイングランドへ追放されかけるが、海賊船の襲撃で道中から戻ってくる。墓場でかつての道化ヨリックの頭蓋骨を手に取り、人間の最期を見つめる名場面が訪れる。父を殺され妹の狂気を目にしたレアティーズはクローディアスと組んで毒入りの剣と毒杯を用意しており、最終幕で和解を装った試合に王子を誘う。試合のなかで毒杯を飲んだ母ガートルードが倒れ、毒剣を奪い合った末にレアティーズもハムレットも致命傷を負い、王子は最後の力で叔父に剣を突き立て毒杯を飲ませる。「あとは沈黙」と言い残してハムレットは死に、ノルウェーの王子フォーティンブラスがデンマークに乗り込んで幕が下りる。

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