『矛盾論』
むじゅんろん
毛沢東·現代
毛沢東の弁証法的唯物論
この著作について
毛沢東《もうたくとう》が延安の抗日軍政大学での講義をもとにまとめた哲学的小論で、中国共産党の理論的支柱となった一篇。
【内容】
世界のあらゆる事物には矛盾があるという命題から始まり、矛盾の普遍性と特殊性、対立物の統一と闘争、主要矛盾と副次的矛盾、矛盾の主要な側面と副次的な側面という区別を順に解説する。具体例として、中国革命期の農民と地主、帝国主義と被抑圧民族、プロレタリアとブルジョアジーなどの諸矛盾が挙げられ、状況に応じて主要矛盾を見極めることが戦術を誤らない鍵とされる。教条主義と経験主義を共に戒め、「具体的状況の具体的分析」というスローガンが繰り返し打ち出される。
【影響と意義】
一九五〇年代以降、『実践論』と併せて毛沢東思想の哲学的基礎とされ、文化大革命期には全国民の必読書として普及した。ベトナム革命やラテンアメリカの民族解放運動、さらには組織論・経営論の分野にも、矛盾分析の思考法を輸出した。
【なぜ今読むか】
賛否の強い政治的背景を抱える書物ではあるが、「複雑な現実のなかで、今いちばん効く矛盾はどれか」を問う思考の訓練としては今も鋭さを失っていない。組織やプロジェクトの優先順位を考える視点を鍛えられる。
さらに深く
【内容のあらまし】
『矛盾論』は一九三七年に延安で行われた抗日軍政大学の講義をもとにしている。冒頭で毛沢東は、唯物弁証法の宇宙観の核は対立物の統一の法則にあると宣言し、これに対する形而上学的世界観を、世界をばらばらに静止した事物の集合として見る誤りだと批判する。本書の問いは、矛盾という概念をいかに具体的な状況分析の道具として使うかに絞り込まれていく。
まず矛盾の普遍性が論じられる。一切の事物は内部に矛盾を含んでおり、矛盾の運動こそが事物の発展の動力である。次に矛盾の特殊性が問題にされる。同じく矛盾と言っても、自然界の矛盾、社会の矛盾、思想内部の矛盾はそれぞれ異なる法則に従う。さらに同じ社会の中でも、封建社会、資本主義社会、植民地社会で支配的な矛盾は異なる。普遍性ばかり強調すると教条主義に陥り、特殊性ばかり強調すると経験主義に陥る、と毛沢東は警告する。
中盤で、矛盾を分析するための実用的な区別が次々と導入される。第一に、複数の矛盾の中で全局を規定する「主要矛盾」と、それに従属する「副次的矛盾」を見分ける。半植民地の中国では、抗日戦争期には民族矛盾が主要矛盾となり、地主と農民の階級矛盾は一時的に副次的矛盾の位置に移る。第二に、ひとつの矛盾の内部における「主要な側面」と「副次的な側面」を区別する。生産力と生産関係の矛盾では、通常は生産力が主要な側面だが、生産関係が大きく遅れると逆に主要な側面となる、というように、主要側面は固定されない。
後半では矛盾諸形態の具体的論述に入る。対抗的矛盾と非対抗的矛盾、敵味方の矛盾と人民内部の矛盾の違いが扱われ、解決の方法も状況によって異なるとされる。教条主義者は古典のテキストから演繹して結論を出すが、革命家は具体的状況の具体的分析から結論を引き出さねばならない。「具体的状況の具体的分析、これがマルクス主義の生命である」というレーニンの言葉が幾度も引用される。賛否両論ある政治的背景のある書物だが、複雑な現実を整理する思考の道具として、いまも組織論や戦略論の語彙に残っている。
著者
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