父
『父と子』
ちちとこ
イワン・ツルゲーネフ·近代
「ニヒリスト」を文学に登場させたツルゲーネフの代表的長編
文学哲学
この著作について
ロシアの作家イワン・ツルゲーネフ(1818〜1883)が1862年に刊行した長編小説(ロシア語『Отцы и дети』)の邦訳。「ニヒリスト」という語を文学に定着させた歴史的作品である。
【内容】
医学生バザーロフは、唯物論と実証主義を奉じ、芸術・宗教・伝統的道徳を一切否定する「ニヒリスト」として、友人アルカージーと夏休みに帰省する。地主貴族として古風な価値観を守る父キルサーノフ家の人々(とくに伯父パーヴェル)との衝突を通して、世代間の思想対立が劇化される。バザーロフは無神論と冷徹な合理主義を貫こうとするが、未亡人アンナへの恋を通じて自らの理論と感情の乖離に苦しみ、最後はチフスにより不本意な死を遂げる。
【影響と意義】
本書はロシア社会において「ニヒリスト」という言葉と人物像を一般化し、1860年代以降の革命的青年文化のシンボルとなった。ニーチェはバザーロフを「ロシア的ニヒリズム」の典型として参照し、ドストエフスキーは『悪霊』でその政治的帰結を描いた。日本でも二葉亭四迷《ふたばていしめい》の翻訳を通じて明治の知識人に深い影響を与えた。
【なぜ今読むか】
ニヒリズム思想の文学的原型に触れることは、抽象的な哲学的議論を超えて、その心情と実存の重みを実感させてくれる。