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『パリ・ロンドン放浪記』

ぱりろんどんほうろうき

現代

皿洗い労働と浮浪生活を内側から描いたオーウェルの出発点

文学社会

この著作について

ジョージ・オーウェルが1933年に発表した自伝的ルポルタージュ。本名エリック・ブレアからペンネーム『ジョージ・オーウェル』への改名と共に出版され、彼の作家としての出発点となった一冊。

【内容】

前半はパリで皿洗いとして働いたホテル・レストラン業界の過酷な労働と、シラミだらけの安宿での貧窮生活を、観察者の冷静さで描く。後半はロンドンで浮浪者となり、救貧施設を点々としながら経験した英国の「貧困の下層」を記録する。オーウェルは知識人としての自分の立場を括弧に入れ、身体を持った当事者として底辺の人びとと日々を共有し、そこから見える社会の仕組みを静かに告発する。英国の浮浪者法制と救貧行政への批判も組み込まれる。

【影響と意義】

20世紀の「潜入ジャーナリズム」の源流の一つ。のちの『ウィガン波止場への道』『カタロニア讃歌』へと続く社会ルポの系譜の出発点であり、バーバラ・エーレンライクやギュンター・ヴァルラフら後続の潜入取材作家に大きな影響を与えた。

【なぜ今読むか】

格差と不可視化された貧困が再燃する現代、下層からの視点を回復させるためのモデルとなるテクスト。

どの訳で読むか

文庫本で読むなら岩波文庫の小野寺訳で、電子書籍もある。小林訳は電子書籍で読めるが、書名の後半が「放浪記」でなく「どん底生活」になっているので、探すときはその題で検索するとよい。

  • 小野寺健訳岩波書店・岩波文庫、1989年

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    1989年に岩波文庫の1冊として出た。目次によれば本文のあとに解説が付き、電子書籍もある。書店サイトに載る紹介文は、本書を作家の出発にふさわしい「ルポルタージュ文学の傑作」と呼んでいる。

  • 小林歳雄訳グーテンベルク21・電子書籍、2022年

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    書名の後半を「どん底生活」としている。電子書籍の配信が始まったのは2022年だが、訳者の小林歳雄は1969年に朝日新聞社から同じ題で訳書を出しており、その本は1984年に晶文社の「オーウェル・小説コレクション」第1巻として再刊された。

さらに深く

【内容のあらまし】

全38章のうち、第23章までがパリ、第24章の船旅からがイングランドを舞台にする。

幕開けはパリのコック・ドール通りの朝7時だ。語り手の宿の向かいで小さな宿を営むおかみが歩道に出て、上の階の下宿人に、壁紙の上で南京虫をつぶすなと怒鳴る。語り手はこの貧民街の人びとを次々に紹介し、自分が書くのは貧乏のことで、初めて貧乏に触れたのがこの街だったと断る。

やがて、同じ宿に泊まったイタリア人が合鍵で何室も盗みを働き、語り手の手元には47フランしか残らなくなる。初めて味わう貧乏は、退屈とけちな面倒と空腹の始まりの連続だが、未来を消してくれるという救いもあると彼は書く。10ポンドの値打ちはあると踏んだ服を質に入れると、70フランにしかならない。ロシア革命で両親を失い、大戦をシベリア狙撃兵連隊で戦った亡命ロシア人のボリスと職を探すが見つからず、食べられない日が続くと、飢えは人をクラゲのように無気力にすると記す。

ようやく雇われたホテルXでは、地下のさらに下の、華氏110度ほどの小部屋で働き始める。ここでは皿洗いが口ひげを生やすことも許されない。上等なホテルの給仕はひげを生やさないので、格下の皿洗いにも禁じて差を見せつけ、料理人は給仕を見下すためにひげを伸ばしているのだ。やがてボリスとの約束を守ってホテルに辞めると告げるが、移ったレストラン「オーベルジュ・ド・ジャン・コタール」はまだ開いておらず、開店準備に10日ほど駆り出されて、ひどい空腹を味わう。開店すると、1日17時間働く日々になる。パリ編の終わり近くで筆はいったん体験を離れ、皿洗いは現代の奴隷の一人だと述べたうえで、無用な労働がなくならないのは、暇を与えれば群衆が危なくなるという恐れのせいだと論じる。

ロンドンに着くと、友人が見つけてくれた仕事は雇い主の不在で1か月先になり、手元には19シリング6ペンスしかない。服を古着と取り替えると、行商人に生まれて初めて「相棒」と呼ばれた。浮浪者収容所の浴室では、裸の男50人が浴槽2つとぬめったタオル2本を分け合う。道連れの浮浪者パディの友人で、路上に絵を描いて暮らすボゾは、王室天文官から礼状をもらったことがあると言い、「The stars are a free show(星はただで見られる見世物だ)」と語る。終盤の浮浪者論では、彼らが歩き続けるのは好きだからではなく、収容所が一晩しか泊めない法律のためで、車が左側を走るのと同じ理由だと説く。そのうえで、救貧院ごとに小さな農園か菜園を設け、働ける浮浪者には1日分の仕事をさせて収穫を食事に回す案を出す。ごく短い最終章で本は閉じる。

著者

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