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『イワン・イリイチの死』
いわん・いりいちのし
トルストイ·近代
平凡な役人の死を通じて生の意味を問うトルストイ後期の中編
文学
この著作について
レフ・トルストイが1886年に公刊した中編小説。長編『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』の後、宗教的回心を経たトルストイが、平凡な中産階級の死をめぐって生の意味を鋭く問いかけた後期代表作である。
【内容】
帝政ロシアの裁判官イワン・イリイチは、順調な出世、形式的な結婚、礼儀正しい社交生活という当時の「成功」の型を完璧に生きてきた人物である。新居のカーテンを掛けようとして落ちたささいな怪我が原因不明の病となり、三か月あまりのあいだに彼は徐々に死へと追い詰められていく。作品の中心は、自分の生がじつは「最も平凡で、最も恐ろしいもの」だったのではないかという遅すぎる自覚と、召使いの若者ゲラーシムの純粋な献身に触れて得られる最後の救いとの対比にある。
【影響と意義】
ハイデガーは『存在と時間』の死の分析で本作に暗黙に言及し、現代の死生学・緩和ケア論・臨床哲学ではエリザベス・キューブラー・ロス以来の必読文献となった。20世紀以降の「死の文学」の出発点の一つでもある。
【なぜ今読むか】
中程度の人生の成功の空虚さと、死を受け入れる一瞬の変容という主題は、現代の終末期ケアや人生後半の内省に直接響く。100ページほどで読める点もありがたい。
著者
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