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戦争と平和

せんそうと へいわ

トルストイ·近代

ナポレオン戦争を舞台にした世界文学の最高傑作の一つ

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文学

この著作について

ロシアの大作家レフ・トルストイが6年をかけて書き上げ、1869年に公刊した、ナポレオン戦争期のロシア社会を壮大なスケールで描く長編小説。

【内容】

1805年から1812年のロシアを舞台に、ボルコンスキー家・ロストフ家・ベズーホフ家という三つの貴族家族の運命を追う。戦争の残酷さと平和の尊さ、貴族社会の華やかさと虚しさ、ナターシャ・ロストワの成長、アンドレイ公爵の苦悩、ピエールの精神的遍歴が絡み合い、モスクワ炎上、ボロジノの戦い、ナポレオン軍の退却など歴史的大事件と個人の生活が幾重にも織り合わされる。第2部では独立した歴史哲学エッセイも展開され、歴史を動かすのは英雄か名もなき人びとかという問いが真正面から論じられる。

【影響と意義】

小説という形式で哲学・歴史学・心理学を一つに統合した試みとして、世界文学の最高峰に位置づけられる。歴史における個人の役割、戦争の不条理、生活の肯定といったテーマは、20世紀の文学・思想に広く影響を与えた。

【なぜ今読むか】

アウステルリッツの戦場で大空を見上げるアンドレイ公爵の場面は、文学史上でも屈指の美しい瞬間。人間の弱さと気高さを同時に描くトルストイの筆力に、長さを忘れて引き込まれる。

さらに深く

【内容のあらまし】

物語は1805年のペテルブルクの社交界から始まる。アンナ・パーヴロヴナのサロンに集う貴族たちが、ナポレオンへの脅威を語り合う。ピエール・ベズーホフは亡父の遺産を継いで突如として大富豪になるが、社交界に馴染めない不器用な青年だ。アンドレイ・ボルコンスキー公爵は若い妻に倦んで戦地に赴く。陽気なロストフ家の娘ナターシャはまだ少女である。三家の運命がここから絡み合っていく。

第1部の戦場アウステルリッツで、アンドレイは旗を掲げて敵陣へ突進し、頭を撃たれて倒れる。戦場の喧騒が遠ざかり、見上げた空の広がりだけが残る。「あの空のほかにいっさいは虚しい」という覚醒の場面は、本作随一の名所だ。捕虜となった彼はナポレオンに会うが、かつての英雄の小ささに失望する。

中盤は平和の時間にあてられる。ナターシャの初舞踏会、アンドレイとの婚約、誘惑者アナトールに惹かれての破談、ピエールのフリーメイソン入会と幻滅、農地改良の挫折。私的生活の細部が長い呼吸で描かれる。

1812年、ナポレオン軍がロシアに侵攻する。ボロジノの戦いの場面で、トルストイは将軍たちの命令ではなく、土埃と砲煙のなかで個々の兵士たちが恐怖と勇気のあいだを揺れる姿を描く。歴史を動かすのは英雄ではなく、無数の個人の総体だ、という独自の歴史観がここで小説に直接刻まれる。モスクワは住民が逃げ、皇帝の入城を待たずに炎上する。捕虜となったピエールは農民兵プラトン・カラタエフから素朴な信仰と生の肯定を学ぶ。アンドレイは負傷し、死の床でかつての敵アナトールと並び臥せって赦しに至る。

ナポレオン軍は冬の退却で壊滅し、生き残った者たちは戦後の日常に帰る。エピローグでナターシャはピエールと結婚し、母として太る。アンドレイの息子ニコールシカが新しい時代へ歩き出す姿で物語は閉じる。

著者

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